依頼
チーズたっぷりのリゾットを食べ尽くし、プレゼントに歓声を上げたアマネは直ぐにホムンクルスを作りたがった。
が、フレスベルグの手が空かないと知ると、我が家のメイドと犬を近所に案内することにしたようだ。
急に静かになった室内で、私はフレスベルグにホムンクルスの依頼をすることにした。
全部は話さないけれど、必要そうな部分は説明しておく。
『ヴェラ』というホムンクルスを数年人間として周囲に認知させておく、という部分だけね。
「顔は触らなくていいわ。私がやる」
「ふーん、なら限りなく人間に近いボディとメイド的行動、ある程度の日常会話か。声はどうするんだ?――ジューンが調整するか?」
「んー、元となる本人を見せたら……顔も声も出来そう?」
「それは出来る。声は基本の数語さえ録音出来れば調整出来るし、顔はそれこそ見ればどうにでも」
「自分でやるのは手間だし、それもお願いしようかしら」
それなりに急ぎ案件なので、ひとまずざっくり作ったあとに細かい調整をかけていけばいい。
「王都のお屋敷に置いておくんだろ? ならちょいちょいメンテナンス出来るし、問題ないな」
「普通の女の子がメイドしてる感じが望ましいのよ」
「なら、回路はちょっと加工して人間思考寄り……か、一般的な若い女性回路をメイド寄りに……」
そう、『ヴェラ』は目立たなくてもいいのだ。
特技はいらない。
そこで生きて生活しているだけでいい。
「存在を見せるために、ミシュティが王都で連れて歩くから、会話は普通に出来るのがいいわ」
「性格どうする? 本人に似せるか、良くある流通回路通りにするか」
「市販回路にちょっと特徴を付け加えるだけでいいかな」
私は大手のホムンクルス回路専門商会のカタログを開いた。
「思春期の女の子回路は……八ページ目っと。へえ、最近は回路も種類豊富なのね。思春期型だけで数十種類もあるじゃないの」
「子供よりか大人よりかで違ってくるからな。思春期のは他のより元々種類豊富だぞ」
「人間がいいのよ、人間……のは三種類だけね」
「人間のは少ないな。内向的、外向的、ミステリアスってなんだコレ」
フレスベルグは笑い始めて止まらなくなり、咳込んだ。
「ミステリアスってちょっと気になるわね、時折意味不明の言動をするって書いてある」
「あー……厨二病系ホムンクルス?」
「却下ね」
セシリアの性格を反映させるのは外向的回路が無難そうだ。
笑顔のある外向的性格だが、無口──愛想はいいが、必要なこと以外は喋らない。
矛盾しているようだけれど、一番ヴェラとしては合っている。
セシリアと入れ替わった時に違和感がないかどうかが一番大事だから。
急ぎなので相場よりは高い金額ではあったが、思い通りの契約がまとまり、私は大満足。
その勢いでアマンダに連絡し、フレスベルグとセシリアが面談出来るよう手配してもらった。
「学園側にあるカフェね。個室があるから」
「目立たない人間の姿で行くか」
「絶対その方がいいわ」
カシャカシャと爪が床を叩く音がし始めた。
犬たちが戻ってきたらしい。
泥だらけの犬、子供、エプロンだけが汚れたミシュティ。
「……ひよこ島に行って身なりを整えてまいります。さあ、アマネさんお着替えをお持ちください」
「わかったー。デストロイヤー連れて行ってもいい?」
「デストロイヤーさんを? ああ、アサリをあげたいのですね。私、砂抜きしたアサリなら持ってます。デストロイヤーさんはお留守番です」
アマネがドタバタと着替えと犬のタオルを準備し、汚れた者たちはまとめてミシュティに連れて行かれた。
「ミシュティ有能だなぁ……」
フレスベルグがミシュティが手際よく犬と一緒に子供まで連れて行ったのを見て、しみじみと呟いた。
「そりゃ家政妖精だもの、こういうのこそ得意分野だと思うわ」
「ネコ美だとこうはいかないんだよなぁ……」
透明なボディの猫耳メイドが、申し訳なさそうに頭を下げる。
「ネコ美ちゃんは一人の主に一途に仕えるタイプのメイドなんだから、仕方ないわね」
フレスベルグの生活スタイルが変わっただけで、ネコ美ちゃんが悪いわけではない。
「まあな。かといってネコ美は二十年以上前から傍に居るから、今更回路交換はしたくないし」
「回路ごと変えると記憶が保持できないものねえ」
「ネコ美は、変えたくない。このままがいいんだよなー」
このまま乗り切るか、もう一体メイドホムンクルスを増やすかしかない。
「あ、ヴェラが必要なくなったら改良して子守メイドにするかな」
フレスベルグが再利用を思いついたようだ。
龍人の子が落ち着くのは、平均して二百歳くらいだと言うし。
そう考えると二年なんて誤差だもの。
「ああ、いいんじゃない? 廃棄はもったいないし」




