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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
スローライフ所望のエルフ

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華煌鯛


 フレスベルグはちょっと前に引っ越したのだけれど、個人的なお祝いはまだしていない。

 そういうわけで、ミシュティと一緒に軽食とお祝いの品を持って新居を訪ねることになった。


「フレスベルグには現金、アマネにはホムンクルスの初歩キット」


「私からフレスベルグ様へ現金というのは失礼になりかねませんので、華煌鯛の塩焼きを用意しました」


 これは魔界ではお祝いとして贈る縁起のいい巨大魚だ。

 焼くのはちょっと手間だが、味もいい。

 四メートルくらいあるので豪華に見える。


「よく手に入ったわね」


「父の伝手で、漁師さんから直接譲っていただけたんです」


「え、自分で捌いたの……?」


「もちろんです。アマネさんにはホムンクルス製作にちょうど良さそうな精密ナイフを用意しました」


 華煌鯛は魔物に限りなく近い魚で、色は綺麗だけれど生物としてはとても凶暴。

 鱗も硬いし皮も硬い。

 刺身は肉が硬すぎて向いてないけれど、煮たり焼いたりするとふんわりと仕上がる。


 (ただ、普通の温度の火では変色すらしない……)


 高温の白炎で焼かないと火すら受け付けないので、加工者が高魔力保持者じゃないとどうにもならない。

 きれいにラッピングされた時空ボックスを抱え、ミシュティはニッコリ微笑んだ。


「今回の華煌鯛は大物でして、脂ものってて最高の個体でした」


「いいわね、華煌鯛は美味しいから楽しみ」


 フレスベルグの新居は、レスターと同じ島にある。

 家のある場所は遠いけれど。


「ずいぶん……頑丈そう」


「色からして、魔崗岩でしょうか」

 

 重厚な黒っぽい石造りの家である。

 龍人の育児仕様と言っていた気がする。

 アマネはいい子だが、力加減が絶望的に出来ていないのでこれくらい頑丈じゃないとダメなのかもしれない。


「前に壁を壊したって言ってたけど。魔崗岩の壁を壊したってこと?」


 龍人の子、恐るべし。


 私の腕の中のディーが興奮のあまり、身をよじる。

 ごぃん!という妙なベルを鳴らすと、その音と共にフレスベルグが現れた。


「よく来たな、さあどうぞ」


「お邪魔しまーす」


 案内されたのは大きなリビング。


「ミシュティの希望通り一番大きなテーブル出しておいたぞー」


「ありがとうございます、では早速」


 ミシュティは以前から仲の良い、メイドホムンクルスのネコ美ちゃんと一緒に華煌鯛を出し始めた。


「おおお!?」


 香ばしい香りが室内に広がる。

 華煌鯛の真っ赤な塩焼きがテーブルに登場した。


 (ちょっと大物……じゃなくない、これ。尾まで入れたら七メートルくらいありそう)


 ディーはクリムゾンヘルファイア……とどこかへ走り去っていった。

 まあ、仔犬は放置でいいだろう。


「それにしても、立派な華煌鯛ね」


「見ろよこの凶悪な顔。いいかアマネ、華煌鯛はこの顔が怖ければ怖いほどおめでたいんだぞぉ!」


「牙すごいね!美味しい?」


「美味い。超美味いぞ」


「ネコ美ー、早く食べようよー」


 ネコ美ちゃんが急いで皿を並べ、ミシュティに教わりながら魚を切り分けている。

 私たちは着席して、静かに切り身を待つだけだ。


「あ、そうそう。アマネには葡萄ジュースを持ってきてるのよ」


 ネコ美ちゃんに渡してあるから、手が空けば持ってきてもらえるんじゃないかな


「──おいしい」


 ナイフとフォークの使い方はじょうずだ。

 私は少し感心してアマネを眺めた。


 (フレスベルグ、この世界で生きていく方法をちゃんと投げ出さず伝えているのね。お互いに成長出来るいい関係を保っている……)


 たった一人でこの世界に投げ出されたアマネは、着々と居場所を作っている。

 蟲と犬を飼い、兄という立ち位置のフレスベルグという保護者。

 龍人コミュニティという親戚付き合い。

 そして私とミシュティ、カルミラやネモ。


 (充分な庇護のもと、成長できるのは良いことよね)


「ほんと、美味しいわね」


「ネコ美ー、おかわり」


「あ、俺も俺も」


 塩加減も絶妙、火入れも完璧。

 私たちはしばらく無言で華煌鯛を楽しんだ。

 この大きさのもの、本来であれば百人規模のパーティに供されてもおかしくはない。

 が、予想通りフレスベルグとアマネはどんどん胃におさめていく。


 最後はミシュティが優雅にストップをかけ、リゾットにすると言って下げられた。


「知ってるか、肉も魚も骨にくっついてるところが美味いんだぞ」


「リゾットにするって」


「華煌鯛のリゾットは……」


 フレスベルグがニヤリと笑った。


「めちゃくちゃ美味いぞ! キッチンに行ってミシュティにチーズたっぷりって頼んでこいよ」


 アマネはバネ路仕掛けのように立ち上がり、機嫌良くミシュティの後を追っていった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

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