計画
まだアマンダには言っていないが、私の計画はこうだ。
王都の新しい屋敷で、私がヴェラという名の侍女を雇う。
セシリアは学生なので、実際の侍女業を行うのはヴェラに似せたホムンクルス。
市販のメイド回路を使ったもので充分だ。
このホムンクルスはフレスベルグに発注する。
セシリアへの侍女教育は、ミシュティが寮に転移して行う。
学園寮の防犯は貴族子女を預かっているのでしっかりしているが……ミシュティならば問題なくすり抜けられるレベルだから、問題ない。
侍女教育は半年でヘレナさんの目を誤魔化せる程度に仕上げ、私に屋敷を売ったことになっているフレッドと偶然に知り合う。
その縁で二人は恋に落ち、『ヴェラ』とアマンダの表の顔であるフレッドが婚約。
三年生に進級した時点で婚姻。
以後一年は私──つまり雇用主との契約都合で退職せずに働き続ける。
セシリアはこのままいくと、王太子の処遇見直しと同時に卒業後に処分されると予測される。
卒業数日前からセシリアと身代わりホムンクルスを入れ替え、セシリアは退職済のヴェラとして婚家であるフレッドの屋敷へ移動。
「半年で、目の厳しい御婦人の目を……」
ミシュティは首を傾げ考え込んだ。
潮風が柔らかな毛を膨らませている。
「実際は見習いとして二年の経歴ですから、完璧じゃなくても問題ありません。低位であっても貴族子女であったという所作を叩き込むのが良いでしょう」
「ヴェラはヴィランテ大陸の、数年前に地震で壊滅した街の子爵の五人目の娘よ」
「寄親はどうなってますか」
「寄親は伯爵ね。当主死亡で子爵家は断絶、生き残った他の姉妹は寄親のもとへ。ヴェラは庶子だったらしくて捨て置かれ、救貧院へって感じらしいわ」
「ヴィランテとアルシアではマナーが少々違ってきます」
「ふうん?」
「ヴィランテ風の基礎、アルシア風の侍女教育がいいと思います」
私はバケツいっぱいになったアサリに満足し、ミシュティと一緒に屋敷に戻った。
「ホムンクルスの『ヴェラ』と私が王都で一緒に食料品や備品の補給で動くことで、ヴェラが侍女見習いであることを周知できます」
「そうね、そこは任せるわ」
ミシュティがアサリを塩水につけ、砂抜きをするために重ならないよう丁寧に並べ始めた。
「詳細が決まったらもう一度話すわね。報酬については近々面談の機会を作るから」
「はい、ジューン様」
私の足元からソフィーちゃんが現れ、それを目ざとくディーが見つけて飛びかかる。
が、簡単に捕まるような蛇ではない。
影から影へと移動するソフィーちゃんを追い回すディー。
最近二匹は頻繁にこうやって遊んでいる。
ソフィーちゃんはお姉さん意識があるのか、時々捕まってあげている様子。
ソフィーちゃんを咥えていても、ディーは振り回したりはせずすぐに離しているので完全に遊びとして成立しているみたい。
(ただし、ソフィーちゃんの性別は未だ不明なのよね。女の子ってことにしちゃってるけれど)
楽しそうで何より。
私はクスっと笑って自室へと戻った。
「さて……」
急ぎの用事は無いが、孤島のホムンクルス屋からアマネ用のホムンクルスキットが届いている。
机の上でも邪魔にならないドラゴンフォルム。
一定の形から大幅に逸れなければ、形や色はそこそこ自由なようだ。
店主特製の回路はどうなってるのかしら。
(ふーん、砂時計の代わりに時間を測ってくれると。あとは鉛筆を削ってくれる……)
勉強するとなると鉛筆が一般的だから、いいんじゃないかな。
魔法ペンは魔法陣を描くのに向いているけれど、絶対それじゃなきゃダメというものでもないし。
往々にして、子供というものはインク壺をひっくり返すものだから。
「あ、光るのね」
スイッチを押せば電灯のように光るようだ。
名前を呼べば返事もするし、指示がなければ机をウロウロ歩き回ると。
ただし、サイズが極小なので複雑な動きは不可。
「これは子供が喜びそうねぇ……」
自分の手で作れるとなると、愛着も持てるしね。
フレスベルグにホムンクルスを依頼したいし、近々訪ねてみよう。
私はペンを手に取り、アマンダに予定した計画を説明する手紙を書き始めた。




