完了
「いや、知り合いではないが……どこかで聞いた事があるような?」
「そう? まあ、古参のエルフには知り合いいるかもしれないわね。ラウバッハは二万年以上生きてるっぽいし」
「あー……生きていればな」
「そうねぇ」
万歳超えのエルフは、実は僅かしかいない。
天寿を全うしたエルフが存在するかどうかもわからない。
だいたいは殺しあいで淘汰されてるから。
「うーん、リッチキングになったエルフ……」
「あ、名前じゃなくてそっちか」
エルフがリッチキングになったって聞いたのは、私もラウバッハが初めてだし。
ものすごく珍しいことな気がするわ。
「普通に生きるんじゃダメだったのだろうか」
「確かに! なんでエルフを辞めようと思ったのか、今度聞いてみるわ」
「それは私も是非聞いてみたい」
「リッチキングになって得なことって何かしら」
私の呟きに、カップの底を見つめていたアラインが顔を上げた。
おかわりが欲しいのだろうか。
「生命体が必要なのは呼吸と食事だな。睡眠はどうにでもなるが」
「それくらいしか思い至らないわね。飲食が億劫になっちゃったか」
「或いは飲食を失念しすぎて死に至ったか」
私は新しい茶葉で紅茶を淹れながら、相づちをうった。
「ああ、確かに時々──数十年飲食を忘れて死んじゃうエルフはいるわね……」
「はぁ。エルフは長命種にしては出生率が高いが、常に絶滅が危ぶまれる人数なのはそういうところもあるんだろうな……」
「龍人みたいに絶滅寸前ってほどじゃないけど。確かに出生率が高めなのに増えないわね」
「増えたら問題があるからじゃないのか」
至極真っ当な意見である。
アラインは二杯目の紅茶に蜂蜜を入れることにしたようだ。
廃村に蜂蜜の重く甘い香りが漂う。
「私もあなたもエルフから見たら異端ですものねえ……エルフらしいエルフが増えるとロクなことにならないのは同意せざるを得ないわ」
「全くだな。さて、用が済んだなら御暇するぞ」
「また何かあったら連絡するわ」
アラインは手を振り、転移していった。
私は念のため、もう一度民家や隅々を見て回ることにした。
(うん、近代のものはない……見落としもなし。アラインは中々きっちりしているわね)
しゅるり、と足元を黒い影がすり抜けていく。
「あら」
ソフィーちゃんは死の島がお気に召したようだ。
私の影から出て、冒険することにしたみたい。
(闇属性の申し子みたいなものだから、この死と生の境界が居心地いいのかしらね)
そうなると、ソフィーちゃんは冥界寄りの生命体なのだろうか。
あっという間に見えなくなってしまったが、大丈夫なのかしら。
気配を追っていくと、特に目的はないようで右往左往しているだけだ。
(こういう場合、お宝とか……なんか凄いものを発見するとか事件が起きたりするんじゃないの?)
だが、残念なことに何も起きなかった。
私はソフィーちゃんをつまみ上げ、ひよこ島へと転移した。
サロンに直接移動したので、驚いたディーがクッションから転がりおちた。
口周りの毛が寝癖でおかしなことになっている。
ディーは帰りを喜んでくれたものの、途中から胡散臭いと言わんばかりに私とソフィーを嗅ぎまわり、鼻水をかけて立ち去っていった。
(え、臭かったかしら?)
なんとなく不安になったので、ソフィーちゃん連れて湯殿へ。
彼女は水が好きなので、すぐに湯に入っていく。
細くて小さい蛇なので、乳白色のお湯のなかだとすぐに見失ってしまう。
「…………」
マカロンちゃんにも水場が必要なんじゃないかしら。
ほら、ヒドラって沼地にいるわけだし……?
この湯殿の排水で溜池っぽいの作るとか、どうだろうか。
どうせほとんどが使われず海に流れていっちゃうものだし。
風呂から出て、夕飯の給仕をしてくれているミシュティにそう言ってみた。
「大丈夫です、ジューン様。マカロンちゃんは……ポチ温泉に入ってます」
「えっ、そうなの」
ポチに拉致された挙句、上空から叩き落とされたというのに……?
「仲直りはしたみたいですよ。時々一緒に沈んでますもの」
ヒドラの潜水時間ってどれくらいあるのかしら。
ポチは無限に沈んでても大丈夫そうだけれど。




