ゴブリン、故郷に帰る
オアシスに現れた私を見て、オアシスに居た人々は全員すごい早さで逃げていった。
誰もいないオアシス。
取り残された駱駝が困惑している。
なんかゴメンって感じ。
ゴブリンを縛り上げたエルフって凶悪さマシマシで怖いよね。
モディにここまでで良いのか、と聞くと
「ちょっと待ってテ」と言いうずくまった。
ゴブリン達が布でモディを囲み目隠しを作る。
パパ(多分)がキリッとした顔で
「モウちょっと!すグ!」と言ってきたので、1時間ほど騒がしく布を抱え、輪になって話すゴブリンを見守る。
「ぴぎゃあ!」
泣き声が聞こえ、いっそうゴブリン達が喧しくなったが
布は片付けられ、何事も無かったようにモディがこちらに歩いてきた。
「緑のエルフ、待たせタ。今乗り物呼ぶ。一緒に来て下さイ」
モディはオアシスを出て笛を吹き鳴らした。
音は高周波で人間には聞こえなさそう。
私にはかすかに聞こえてるけど。
数分待って地響きと共にサンドワーム…竜種だけど巨大な長い芋虫みたいなのでワームと呼ばれている…魔物が姿を現した。
見た目とは裏腹に、ゴブリンと同じく草食の大人しい魔物だ。
頭に籠を載せている。
私はゴブリンと共に籠に乗り込み、先程から感じてた違和感の正体に気がついた。
「ねえ、ゴブリン増えてない……?」
数えてみるとゴブリンは8体居た。
パパ(多分)がドヤ顔で
「モディ、うんだ!赤ちゃん!さっき!一人ガあル!」
と、叫んだ。
ええー、どれが赤ちゃんなの?
さっぱりわからないよ!
なに、ゴブリンって産まれた時から成体と変わんないの?
知らなかったわ………
サンドワームは滑るように砂の上を進み、砂漠の上にやけに不自然に青々と繁っている小さな草むらの前に到着した。
ここがモディ達の故郷の入り口らしいけど。
不自然すぎるよ…こんな擬装で大丈夫そ?
草むらに入ると、モワっとする転移特有の感覚があってゴブリンの国に転移したらしい。
案の定逃げ惑うゴブリン達。
何故か一緒に来た筈のモディ一家まで逃げ惑っている。
さっきまで仲良く籠に乗ってたのに…
落ち着くまで黙って待つのが一番良さそうだけど、噴水に落ちたりパニックになって手近な帽子をむしり合ったり喧嘩が起きたりで
見てるこっちが不安になるほどカオスだ。
私が10本分の爪のお手入れを終えた頃、ようやくゴブリン達は落ち着きを取り戻したようだ。
もはやモディ一家がどこにいるのかもわからない。
何百といるゴブリンはやっぱり見分けがつかないし、私が立ち上がるとまた最初と同じように群衆パニックが起きた。
2回ほど同じことを繰り返し。
私はウンザリしてきたのでコミュニケーションを取るのを諦めてそのまま家に転移した。
一回来たからにはいつでも来れるし。
家は良い。落ち着くわ。
庭で植物の世話をちょっとして、ガゼボでボーッと風に揺れる野花を夜になるまで眺めて過ごし、気力がちょっと回復したところでリビングに入って手紙類をチェックすることにした。
リビングの箱にある魔方陣は私個人のメールアドレスのようなものだ。
転送魔法を使える者なら、どこからでも送れるようになっている。
外のポストはこの箱と転送魔法で繋いであるだけで、ただのポストだからこの街の人達用。
いっても使うのは入国管理かギルドか不動産屋くらいだろうけど。
魔道具屋とかのダイレクトメールは廃棄。
結構あったと思ったけど、ほぼ広告で残ったのは2通。
アルフォンス殿下…団長の紋章入り書簡と、魔王組合からの書簡。
団長の方は9の月の10日に屋敷に来るようにとあった。
実質召喚状よね、これは。
魔王組合の方はそろそろ6回目の勇者召喚しない?という打診。
メンバー8人の合意があればやるらしい。
前回の勇者召喚から1000年以上経ってるから、そろそろ頃合いか。
前回大揉めに揉めたせいでメンバーが3人死んじゃってるので、今回からは魔王未経験者から選出される約定だった筈だ。
3回目の魔王を済ませてる私には関係ない。
合意の手紙をしたためて、送り主であるカルミラに返送した。
カルミラは私と同じように自然発生した魔族で、多分同世代。
吸血鬼の女王様みたいな立ち位置の魔族だ。
とっても強い種族だけど、貧血が玉にキズ。
赤血球を自己生産出来ないから他者の血を必要としてるわけだが、吸ったり飲んだりする訳じゃない。
普通に月イチ位で輸血している。
血を吸う種族として恐れられているけれど、それはサキュバスが撒き散らした風評被害らしい。
団長指定の日には15日以上の間があるし、明日からまたメアリの家に何回かお邪魔しよう。
ペロティ達の様子も見に行っておきたい。
マジックバックからタマゴサンドを取り出し、食べたものの物足りず、ドワーフの里の銘酒、【名匠】シリーズの火酒を取り出してロックでいただく。
今日の火酒は【名匠ジャック】
強すぎて味の違いがわかる人がおらず、ラベルが違うだけでどの酒も同じという説もある。
酔った勢いでアルセンブルグをレアで焼いて更にポテトフライまでお腹に納め、ソファーでそのまま寝落ち。
もう私には寝室要らないかもしれない。
ちゃんと朝に目覚めた私はシャワーだけ浴びて、魔法使い装備に着替えた。
朝御飯は要らない、なんか胸やけがする。
目指すはペロティの巣穴の近くだ。
転移すると珍しく吹雪ではなく晴れていたけれど、その分凄く寒い。
巣穴の方を見るとペロティが嬉しそうに駆け寄ってきた。
うん、元気そう。
久しぶりに雪玉を投げて遊んだり、ペロティを抱きしめたり、撫で回したり。
気がついたら昼過ぎになっていた。
また来るね、とペロティに別れを告げて。
また家に戻って可愛いチェックの青いワンピースに着替えてメアリの家へ。
いつも通り出迎えてくれたらメアリと雑談をしていたら、デートに忙しいとほとんど顔を合わせていなかった長女のマイリーが珍しく在宅していて、今度新しく出来たカフェに自分の友達と何人かで一緒に行こうと言う。
街の子と知り合いが多いマイリーとカフェに行けば、私がヤバいエルフではないという認知度が上がるかもしれない。
大人の汚い打算まみれだが私は誘いに応じ、近々カフェでお茶することを約束した。
猫田ヤム美様
いつも誤字報告ありがとうございます。
心より感謝申し上げます。