命名
「仔犬、アマネにあげようと思って」
ミシュティが頷いた。
「ナッツの方ですよね。ずいぶんと懐いてお互いくっついてましたから」
「トイレにまでついて行ってたわね」
数日前、ミシュティがいつものようにアマネを預かった。
今回は長くて、二泊三日して行ったのだが……。
ディーは我が家に来たその日から私の後をついて回って一緒に寝ているが、ナッツはずっとサロンのクッションの上で寝ていることが多かった。
ところがアマネのことは気に入ったようで片時も離れず、会ったその日からアマネのベッドで寝るようになった。
「今日で四日目です」
ミシュティが心配そうに私の膝の上のナッツを撫でた。
ナッツはアマネが帰ってから、外遊びをしなくなり食事もしなくなってしまった。
なだめすかしてどうにか少量を口にする程度。
魔物とはいえ、幼体だし心配になる日数だ。
「実はフレスベルグからも手紙が来てて、アマネも元気がないんですって」
「ナッツさんは主を見つけたのですね。ディーさんは最初からジューン様を主と定めていましたが……」
「ミシュティの実家の犬でしょう? だからミシュティさえ良ければね」
「もちろん異論は御座いません。絶対可愛がって下さると思いますし」
私は頷き、手紙でフレスベルグにナッツを飼うかどうか尋ねてみた。
返事はすぐ届いた。
アマネが狂喜乱舞で壁を壊したので、瓦礫を本人に修理させたらすぐ行く、と。
「嬉しくて走り回って壁を壊しちゃったみたい」
「まあ!」
「瓦礫が残ってるから、そのまま魔法で修復してから来るみたいよ」
「ではナッツさんの分のお世話用品やリボンを包んでおきます。向こうの食事に慣れるまでの食料やおやつも……」
ディーは元気いっぱいだから、余計にナッツのしょぼくれ方が際立っている。
まだ痩せてはいないが、時間の問題だ。
このままナッツとアマネを離しておいたら、良いことは何もないだろう。
二時間ほどしてフレスベルグとアマネが訪ねてきた。
ナッツは玄関へ走り出し、愛する主人を迎えた。
「おお、感動の再会だな」
転がりまわる魔咆犬の仔と龍人の子。
ふたりは再会を喜び、大騒ぎだ。
ディーも混ざって追いかけっこが始まった。
「一瞬で元気になったわね……」
「良かったです。あ、フレスベルグ様。こちらがお世話用品と食料になります。缶詰は最後の砦のものですから、お店で入手可能です」
「何を食べさせてもいいし、龍並みに頑丈だから怪我させる心配もないわよ」
「あんなちっこい犬が?」
「犬と言っても魔咆犬は魔物だから。そこだけは覚えておいてね」
フレスベルグはミシュティに紅茶を淹れてもらい、ため息をついた。
「仲良くなった仔犬飼うか?って聞いたら奇声を上げて走り始めて」
「ふふふ」
「壁に穴が空いた」
「壁の作り方でしたら、先日一緒にやったので上手に直せたのではないですか?」
「うん、綺麗に直してたぞ」
息を切らせた子たちがサロンに戻ってきた。
ミシュティがアマネに銀のボウルを手渡した。
「アマネさん、この子にお肉をあげてみてください。ずっと寂しがって食べてなかったので」
「わかった! 名前はナッツのままがいいの?それとも僕が新しくつけてもいい?」
ディーとナッツにお肉を平等に与えながら、アマネはそう尋ねてきた。
「名前? もちろんあなたが名付けるのがいいと思うわ」
ナッツはガツガツと大量のお肉を食べ尽くした。
ミシュティがディーでお手本を見せながら、アドバイスを始めた。
アマネは慣れない手つきでナッツの口周りを拭い始めた。
「あっ、ゲップした」
「うふふ、あわてて食べたからでしょうか」
「きっとそう」
ナッツの瞳は輝きを取り戻し、穏やかな顔になっていた。
ディーもたった一匹しかいない姉妹が元気になったので、嬉しそうだ。
「で、お前名前決めたの?」
フレスベルグがアマネに問いかけた。
「うん」
「何にするん」
「クリムゾンヘルファイア!」
「なんて?」
「クリムゾンヘルファイア!」
「なげーよ」
「絶対略しちゃダメだからな、フレ兄!」
「クリムゾンヘルファイア……」
「クリムゾンヘルファイアさん、嬉しそうです」
「略しちゃダメみたいよ」
「はい、クリムゾンヘルファイアさんですね」
「そ、そうね」




