移設
「……というわけで、一つめはフレスベルグが勢い余って壊したから、二番目の候補地を死の島に移設したの」
カルミラがだるそうにクッションにもたれかかった。
(冬が終わったからまだマシだけれど、寒いのよこの城は……)
「あ、場所は南側の海岸沿いね」
「島の名前は死の島になったの?」
「ああ、それね……勇者パーティがあと数日で最後の祭壇に到達しそうで」
最後ってどこだっけ。
私は記憶を掘り起こし、覚えがなかったので更にメモも確認したが何も書かれていない。
「もう最後? 結局最後はデジュカになったんだっけ」
「そう。今まさにデジュカに向かってる最中だと思う」
「意外と早かったわね」
「そうね。最後の祭壇のドラゴンオーブが揃ったらそれを嵌め込む祭壇がもう一つ現れる」
「毎回そんな感じよね」
「全部のオーブを嵌め込むと、古びた海図と勇者の盾が出現する。オーブはいつも通り回収して次に使い回すわ」
「今回は海図と盾なのね〜」
カルミラは頷き、白い指先で真っ赤な苺を口に運んだ。
「フレスベルグがせっかく作った海図に死の島って書き入れちゃって。もうやり直すのも面倒だし、文字は古風で美麗だったから……もう死の島で良いって事になったの」
ヒラヒラと紙を振って、カルミラは私に海図を渡してきた。
(約二千年前の紙をちゃんと使って、紙の風合いもインクも経年劣化させる魔法処理済み)
「いいんじゃない」
「大陸名とか目印もフレスベルグに書かせたのよ、筆跡違うとなんだか変でしょ」
「うん。この海図は人間側に渡って、後々研究されるだろうから紙質も細工もこれなら問題ないと思うわ」
アルシアから死の島までの船旅、トラブル無しの最短距離で四十日くらいかしら。
物資補給の寄港、天候、進路変更せざるを得ないトラブルを加味すると六十日あまりを見ておいたほうが良さそうだ。
「ジューンは移設した廃村の魔法処理をお願いするわ。私は死の島から退避させる死霊たちの滞在先を手配するから」
「五万人は残すんでしょ?」
「そう。勇者との戦いになるって希望者を募ったの。四万八千の希望者がいたから、それで。残り二十万人はどこかの島に避難させる」
「還されないよう気をつけないとね。破損は勝手に治るからいいけれど、還されたら戻せないから」
「ベイリウスとネモ、ティティが死霊たちに持たせる御守りを量産中よ」
「ふうん」
「セレナは海の方をやってもらうから……」
勇者の船旅の安全確保は、マーメイドのセレナの担当。
基本見守るだけだが、船が大破するような魔物だけは排除する。
「それより!」
「今からジューンの島に行くわ」
「は?」
「魔咆犬! 見たいのよ!」
そうだった、カルミラは無類の犬好きだったわ。
「まだ昼だけど大丈夫?」
「大丈夫。昨日輸血したばっかりよ」
カルミラは吸血鬼だが、陽光で死ぬわけではない。
色白過ぎて赤くなるだけだ。
血が足りてればものすごく頑丈だから、問題なさそうだ。
「日焼け止め塗ってくるから待ってて」
「遊びたいなら軽装がいいわよ」
一時間ほどでカルミラは意気揚々とサロンに戻ってきた。
珍しくパンツスタイルだ。
(これは本気を感じる……)
「見て〜」
カルミラが真っ白な日傘を見せつけてきた。
日傘のくせに妙な気配を漂わせている。
「あら、素敵ね」
「白龍の翼膜なの。持ち手や骨組みはミスリルだけどね。レスターに作ってもらったの」
レスター作なら納得だ。
魔道具の日傘が何の役に立つのかは疑問だが、紫外線対策はバッチリのようだ。
「魔力を通すと、雹がばら撒けるのよ」
「…………真夏にはいいかもしれないわね」
「あとね、ケルベロスの赤ちゃん用なんだけど勝手に逃げ回る龍皮の小さいボールがあるの」
「動くボールはいいわねぇ」
「新品の在庫があるから、十個あげるわ」
「嬉しい、ありがとう」
カルミラが大きな紙袋を振り回した。
(あれは『最後の砦』の紙袋……ペット用品店に行ってきたのか)
「女の子なんでしょう? リボンいっぱい買ったの! ケルベロスは赤ちゃんでも大きいから、小さいリボン買うの楽しかったわぁ」
「そんなに……なんか申し訳ないわね」
カルミラがマジマジと私を見た。
「もう長い付き合いだけど──エルフが申し訳なさそうにしてるのを見たら、びっくりするわ」
「ああ、そう……」




