爆買
「ギャッ! あ、いらっしゃいませ、今日は魔馬のおやつでも……?」
急に現れた私を見て、サキュバスの店長が淑女らしからぬ声を出した。
「魔馬のオヤツも買っていくけれど、今日は小型犬のグッズを買いに来たのよ」
「小型犬……エルフが……?」
「……確かにエルフってあんまり小さい生き物を飼うイメージないわね」
「は、はい……ですが小型犬グッズならば当店は品揃えに自信があります!」
グラマラスな店長はハンカチでこめかみを抑え、気を取り直したように犬コーナーへ私を案内した。
「長生きする犬だから、買い替えが要らなさそうな良いものを買いたいのよ」
商品は沢山あるが、値段はまちまちだ。
「毛は長めなの」
「それでしたら、粗めの櫛と細かい櫛とブラシ、仕上げ用ブラシ……」
「二つずつね。二匹いるの」
「櫛はこちらのセット……ミスリル合金で肌当たりがよく、抗菌魔法が練り込んであります」
「じゃ、それ二つ」
「ブラシはこちらがオススメです。最初はミスリル合金のシリーズで。仕上げはドラゴンの柔毛で作られたこのブラシなんていかがですか?」
「へえ、ドラゴンの」
「ええ、一部のドラゴンの幼体にはちょっとだけ毛が生えてますでしょ?」
「ああ、パヤパヤしてるやつ」
店長は自信ありげに頷いた。
「ええ。最初の脱皮後に一緒に抜け落ちた毛を集めまして、持ち手は犬が大好きな爽香木を使ってますの」
「いいわね、じゃあそれも二つ」
「ありがとうございます! 高級すぎて二千年くらい売れずに置いてあったお品ですが品質は保証いたします」
「あと女の子なの。リボンが要るわ」
「それでしたら、可愛いのがいっぱいあります!」
「自分で結ぶんじゃなくて、魔法でくっつけられるものがいいんだけれど」
「もちろん取り扱ってますわ」
案内されたのはカウンター近くの壁面。
色とりどりの可愛いリボンが組になって壁にかけられている。
「当店のこちらのペット用魔法リボンは、何かに引っかかった場合すぐに外れる安全仕様になってます」
「なるほど……どれも可愛いわねぇ」
「飼い主の魔力を通して付けたい部分の毛に当てるだけですので、お手軽ですよ」
「ふうん。じゃあお試しで二つ……ピンクの、ああそれがいい」
「オーダーも承っております」
「オーダー! いいわねえ」
「あとはシャンプー、リンスと爪切りですわね、当店のサロンでも受け付けてますけれど」
「爪切りだけ、一応買っておくわ。メイドがそういうの得意そうだし」
(シャンプーとかは自作のほうがいい気がするのよね。犬にも好みがありそうだし)
「硬い爪の子だと上の列、そうでもない普通の爪なら下です」
「小型犬なのよ。……でももしかしたらすごく硬いかもしれない」
「でしたら上の列がいいでしょうね。切れ味がいいのでどんな爪でも切れますし」
「……オリハルコン製のがあるじゃないの」
「ああ、こちらは当店最高級の爪切りです。クーン郊外にあるドワーフの工房のものでして」
「じゃあこれ二つ。あとは幼犬用のおもちゃとオヤツ、魔馬のオヤツと」
「月齢は?」
「乳離れしたばかりか、もうちょっとかな」
「でしたらこちらのコケット全部ミンチ缶がオススメです」
「コケットはどんな犬でも大好きだものね」
「あとはミルク。家畜山羊乳と魔山羊の粉ミルクがございます」
「じゃ、魔山羊のほうにする」
「ありがとうございます!」
馬たちの大好きな蜜入りビスケット、蛇用のオヤツ、仔犬用ビスケットも包んでもらい支払いを済ませる。
おもちゃは破壊力を見てから考えよう。
「あっ」
大事なものを忘れていた。
慣れたら王都に連れて行く可能性もあるから、ハーネスとリードが必要だったわ。
もちろん自作でもいいけれど、可愛いのがあれば買ったほうがいいものね。
店長にそう言うと、大喜びで案内が再開された。
「これは……すごく可愛いわね」
「魔道具扱いで、伸縮タイプですから魔力を通せばワンちゃんのサイズにピッタリ合わせられます」
「二組欲しいのだけど、色をどうするか迷うわね……」
迷いに迷って、龍の翼を加工した深紅のハーネスと龍の髭を編んだ焦茶のリードに決めた。
(これで準備は整ったわ……あとは私と一緒に寝てくれるかどうかだけね)
私は大きな包みを抱えたまま、ひよこ島へと舞い戻った。




