二匹
モヤシ関連で数日慌ただしかったが、いい感じに解決したらしく平穏な日々が戻ってきた。
「犬……?」
「はい。祖父の魔馬牧場に魔咆犬の母犬が紛れ込んで来て、出産したあと力尽きたらしく」
「魔咆犬ですって?」
「はい。敷地内で死にかけてる二匹の仔犬を、ベスが咥えて持ってきたのですが」
「ベス……」
「あ、ベスは祖父の犬です。牧羊犬ですので、普通の犬です」
ミシュティは私の足を丁寧にマッサージしながら、楽しそうに牧場の話を聞かせてくれた。
「結局ベスが自分の仔と一緒に育てたんですが、乳離れしてからちょっと困ってるらしくて」
そりゃそうでしょうね。
普通の犬と魔物である魔咆犬は、全く違う生き物だもの。
ただ……魔咆犬は成犬でも五キロ程度にしかならず、仔犬から育てれば人慣れする魔物。
飼ってる人は見たことはないが、飼育事例はある。
「とても珍しい犬ですし、ジューン様が欲しいかと思いまして。二匹とも女の子ですが」
「いいわね。他に欲しい人がいないなら、二匹とも島で飼いましょう」
ミシュティはパッと顔を輝かせ、頷いた。
「牧場には牧羊犬がもう七匹いるので、良かったです」
見た目はフワフワの小型犬だが、魔物枠。
非常に攻撃力と瞬発力に優れ、相手がフェンリルでもケルベロスでも互角に戦える犬である。
その咆哮たるや、地面を震わせると言われている。
(小型犬は室内で飼うべきよね。ただちょっと考えないとミシュティがモップを手放せなくなってしまう……)
ミシュティが犬を引き取りに牧場に行ったあと、私は普段使っているリビングの壁に四十センチほどの穴を開けた。
外に出て、屋敷側面に空いた穴を土魔法でドーム状に囲って不壊処置を施す。
出入口を作り、ドームの中に清浄の魔法陣を敷けば完成だ。
身体に付着した泥や草、雑菌などはここで除去できる。
(これならミシュティも床の汚れに追われずに済むんじゃないかしら)
小型犬と言っても、運動量は魔物に準じてるはずなので好きに出入り出来たほうがいい。
犬が到着したら、その子たちしか出入り不可能にすれば問題ない。
ソフィーちゃんも許可しておこう。
島全体に防御魔法は張ってあるけれど、ポチクラスの魔物が来たら数日しか保たないだろうから番犬を飼うのは良い機会だ。
「…………骨、骨が必要だわ」
小型犬に丁度いいサイズの骨が必要だ。
ドラゴンの翼の骨あたりならちょうどいいんじゃないかしら。
「腱がついたままだとミシュティが困りそうだから……」
しっかり削いで乾燥させればいいかな。
「長さは二十センチくらいがいいわね」
西の作業場に行って骨を乾燥させ、ドラゴンの肉でジャーキーを作り生肉も小さめにカットしておく。
ドラゴン肉は魔力濃度が高いので、私たちには美味しいとは思えないお味だが……魔物には素晴らしいご馳走になる。
(あとはミシュティがどうにかするでしょ)
綺麗な箱に魔咆犬のおやつを入れ、生肉は時空箱に詰め込んだ。
これでとりあえずの準備は完了である。
「あとは寝床か」
魔界のペットショップで犬用ベッドを買いに行くべき?
「うーん、とりあえずふかふかの毛布でいいか」
ミシュティ早く帰ってこないかしら。
小さい犬のいる生活、まさにスローライフよね!
「そうだ、魔羊のクッションがいくつかあったはず」
時空庫から七個あったクッションを引っ張り出し、毛布と一緒にリビングの隅に並べておく。
「……ブラシと櫛が必要だわ、あとご飯を食べる食器!」
魔馬用のケアグッズはあるが、大きすぎる。
小型犬用の物が欲しい。
食器は使ってないミスリル銀のボウルがあるから、それを使わせればいいけれど。
ボウルに衛生魔法陣を書き込み、重ねてクッションの横に置いておく。
確か魔咆犬は毛が長いはずだ。
魔物図鑑でしか見たことはないが、耳が垂れたパピヨンみたいな外見だったと思う。
私は『実は超危険な小型魔物たち』を引っ張り出し、魔咆犬のページを確認した。
(ふうん、推定寿命一万年。まあまあ長生きするのね)
やはり記憶の通り、毛が長い。
しかもものすごく可愛い。
女の子ならば、リボンもつけなくてはいけない。
(やはりブラシは必須ね! ペットショップに行かなくてはいけないわ)
私は慌ててミシュティに書き置きを残し、魔界のペットショップ『最後の砦』へ転移した。




