農場②
「モヤシを買ってくれるんスか!」
久しぶりに見たセシルは元気そうだ。
何かの作業中だったらしく、土埃だらけだったが。
「ここで話すのもなんだし、どうぞこちらへ」
養父母はすでに引退し田舎に引っ込んだそうだ。
セシルはパートのおばちゃんたちの力を借りて、農場を切り盛りしている……と話した。
「土地はそこそこ広いけど……規模としては中規模の農場ッス。でも手が回らない農地も活用したいと思ってて」
「なるほど」
マサオは開店直後は一日三十キロ、軌道に乗ったらもっと増やしたいと言いセシルと交渉を始めた。
私は好きに見ていいと言われたので、ミシュティに農場を案内してもらった。
妙に詳しいのは、時々お手伝いに来ているかららしい。
「ここは長いネギの畑ですね」
「あら、コケットがいるじゃないの」
「百羽位いますよ。肉質はイマイチですが、卵をたくさん産む品種です」
「卵も卸してるの?」
「いえ、自宅用とご近所との……ブルグ乳や肉との物々交換に使っているみたいです」
丸々と太った元気そうな平飼いコケットは、我が物顔でちょこちょこと歩き回っている。
一応、長ネギ畑の横が彼らの住処のようだ。
「コケットにもそれぞれお好みの場所があって、卵探しはそんなに大変じゃないみたいです」
「へえ〜」
「こちらはハーク菜、向こうの畑一帯は菜花です」
「あ、菜花のお浸し食べたい」
「では帰りに譲っていただきますね」
小さな芽がきれいに並んでいる畑をのんびり歩き、コケットのコッコッコッという優しい鳴き声を聞きながら見学を楽しむ。
「──アレがモヤシ栽培の建物です」
ミシュティが古い長屋のような建物を指さした。
「元々は昔、多くの人を雇っていたころの寮だった建物と聞きました」
「壁を撤去したのね。ほんとだ、モヤシがある……」
長屋の一角にはモヤシが栽培されているが、スペースは八割余っている。
多段にしてフル活用したら余裕そう。
「これならマサオの要求量も満たせそうだけど……」
ミシュティは真面目な顔で頷いた。
「量が増えてきたら、セシルだけでは無理でしょうね……」
「マサオの店が繁盛したら数十キロを毎日だもの、一人じゃ難しいでしょうね」
「お、二人ともここに居たんだ」
マサオがセシルと一緒にモヤシ栽培場にやって来た。
どうやら商談は成立したらしい。
「一緒の時期に転移してきた奴らで、まだ仕事決まってないヤツがいてさぁ」
機嫌良くマサオが話し始めた。
「来月からモヤシ増量だから、お試しでセシルが雇ってくれるらしいぞ。帰ったら面接だって教えてやらないと」
「まだ決まってない人が居たのね」
「中学生たちは一応十四歳だったからさ、若いしすぐに決まったんだけど、三十代の女性が中々決まらないでいるんよ」
「いやいや、ありがたいッス! 水スキル持ちだって言うし……」
セシルが嬉しそうに大きな声を出した。
「正確には微量の水が出せる、純水(小)って言ってたぞ」
「モヤシは水が大事ッス。少ない水でもひと手間省けるわけだし」
その場にいなかったので、どういう話になったかはわからないが双方満足げなのでいい商談だったようだ。
セシルの話によると、徒歩十五分の場所に寡婦の村があるという。
「小さい村なんスけど、元々は未亡人の集落で。そのせいもあって、今でも女性が多いミルゾ村があるんスよ」
もし正式な雇用が決まれば、そこに住めば通いやすいんじゃないかな?
という話だ。
「試用期間中は王都とこの先のハルヴェ村との定期便で通ってもらって……」
「帰ったらさっそく説明するわ」
「ありがたいッス! てか今から王都まで皆さんを送るので、ついでに話聞いてもらおうかなって」
「本人相当悩んでるから、喜ぶかも」
セシルが可愛らしい農耕馬二頭と荷馬車を引いてきた。
ガタガタと揺れる荷馬車はお尻に良くなさそうだが、三十分程度なら全く問題は無い。
ミシュティはセシルと仲良く御者席に座っている。
馬は大人しく、カポカポと歩き始めた。
「ジューン、ありがとなー」
荷台に乗っている私とマサオは小声で会話を交わした。
「知り合いが働いてくれたらいいわね」
「ギルドが住ませてくれてるあの屋敷はさぁ、あと二ヶ月で出なきゃいけないんだよ。元々半年で閉鎖って言われてて」
「俺とグリュックゼーリヒカは先月引っ越したんだよ」
「グリュ……長いわ。あの人は春男でいいわ」




