ホムンクルス②
生命活動レベルを下げて冬眠状態に近いセシリアは身動き一つしないが、規則正しい呼吸と胸の起伏で状態は安定している。
眠らせるより深く意識を沈めておくのは、きちんとした理由がある。
サンプルを取るのにどうしても痛みが発生してしまうため、全身麻酔のようなものだ。
今のホムンクルス技術は、似た素材を組み合わせてそれっぽく作り上げていくもの。
模倣技術や合成素材は日々進化していて、理想に近いものを作り上げることができる。
それとは真逆で倫理スレスレをいくのが古代ホムンクルスだ。
まあ、倫理と言っても時代で変わってくるもので、この世界は生命を弄ることに対する忌避感が薄い。
(というか、罰則が無いのよね……多種族世界だし、社会システム的に規制のしようもない)
地球の倫理観でいくと限りなくアウトに近いのは間違いないと思う。
「さて」
計測データは完璧に素体に再現出来た。
爪の形も顔も完璧。
古代ホムンクルスが決定的に今のものと違うのは、実際にサンプルを取って培養していくからである。
毛髪、皮膚、骨、骨髄、筋肉、脂肪、粘膜、眼球から内臓までありとあらゆるサンプルを採取していく。
もちろん極微量であるので、セシリア本人に傷を残すわけではない。
サンプルを大きく採れば培養も早いけれど、今回は二年猶予があるので微量でいい。
「いい感じ」
作業は順調に進んでいく。
ちなみに、脳細胞だけは採取しない。
脳まで再現してしまうと、それはもう生命になってしまうからだ。
同じ理由で卵巣は再現されるけれど、卵子は再現させない。
脳は本人の脂肪を使って限りなくそれっぽい形状を作る。
血管と繋いで生体としての品質は維持するが、ホムンクルスを動かすのは見せかけの脳ではなく、埋め込まれた回路になる。
(神経は必要だけど、痛覚は持たせない)
そこ以外は人間と遜色ない仕上がりになる。
解剖されても見分けがつかないほど、完璧なものだ。
(最初からホムンクルスとわかってて調べられれば、回路があるからバレちゃうけど)
人間だという先入観があればまずバレない。
先入観を利用するなら、もっと性能を落としてもいい気がするのだが。
そこは完璧を目指すアマンダの意を汲んで、私も完璧を目指す。
一日目は計測と素体への反映。
二日目はサンプル採取。
アマンダには最短で三日と言ったけれど、トラブルもなかったので実際は一日半で終わった。
作業中、セシリアは絶食なので終わるのは早ければ早いほど良い。
冬眠状態と言っても長引けば消耗させてしまうだけだから。
丁寧に採取箇所を治癒魔法で回復させて、作業完了だ。
治癒魔法は本人の寿命を縮めるリスクがあるけれど、傷は極小だしピンポイントで魔法を当てているので数週間分の代償で済んだと思う。
もちろん、治癒魔法の代償はアマンダとセシリアに説明してある。
「よし、じゃあさっさと帰しちゃいましょ」
連絡を入れてから転移したアマンダの隠れ家には簡易ベッドが用意されていた。
セシリアをそこに寝かせてから魔法を解除。
「問題なく終わったわ。もうじき覚醒して、数時間後には普通に動けるようになるから」
「成功したのね?」
「問題ないわ」
「そう。なら何も言うことはないわ、ありがとう」
慌てて駆け付けた様子のアマンダは、金髪のかつらだけ被ったスッピンだった。
今がまだ夕方にもなっていない時間だから、仕方なかったのだろう。
昼間はフレッドの時間で、アマンダの活動時間ではないからね。
「早いほうがいいと思って来たんだけど、夜のほうが良かった?」
「いいえ、その可能性を考えて転移陣を自宅に敷いておいたの。なので、不用意に誰かに見られたわけじゃないのよ。身バレの危険はないわ」
「そう。準備万端なのは良いことよね」
アマンダは頷き、私は手を振って作業場に戻った。
私の作業はもう少し続くのだ。
数百個あまり設置されている培養ポッドの下には、精密な魔法陣が敷いてある。
これでそれぞれの細胞を培養していかないといけない。
今日明日に出来るものではないから、長丁場である。
「ある程度培養が進むまでは放置だけどね……」
ここだけは絶対に誰も来られないようにしないといけない。
私は作業場にしっかり障壁を張り、温泉に入るために湯殿に転移した。




