移設
「ちょっと慌ただしいけれど、進捗会議を始めるわね」
カルミラがそう言って議題を述べた。
「最終決戦地の名称は勇者チャンネル主導で募集するそうよ。組合の議題は……フレスベルグから提案されている勇者たちの回復ポイントを設置するか否か」
「回復ポイント?」
「それ必要なん?」
私は状況を説明する係に任命されたので、ホワイトボードの前に立った。
「ラウバッハの島は推定五千年、死霊たちの巣窟になっていたわけだから普通の島ではないのが大前提よ」
「うん」
「それはわかる」
「つまり、あの島は死霊たちが住みやすいようカスタマイズされている」
「あー、確かに普通の雰囲気じゃないよな」
「うんうん」
「ケルベロスには居心地良さそうだけれど」
「ケルベロスが好む場所は本来の生息地である冥界とこちら側の境界。ということは、それに近い場所ということなのよ」
「あ、そういう」
「長年死霊しかいなかった島が、境界に限りなく近い場所になっているのは当然の帰結で……」
私は全員を見渡し、話を続けた。
「魔王組合のメンバーは──長命種ばかりだからあんまり実感わかないかもしれないけれど、あの島は普通の人間には悪い環境だと言わざるを得ないわ」
「境界となると、短命種はもって数日?」
「死ぬまでは無いけど〜体調は崩すだろうねェ?」
「仙人とか普通に境界にいるじゃん? あれ人間でしょ」
「うーん、限りなく相性がいい人間なら逆に長生きするのは確かなのよね、賢者とか仙人と呼ばれてる人間ね」
「あ、仙人とかってそういうことなの」
「境目にいる奴らってあんまり年取らないって聞いたことはあるな」
ホワイトボードいるのかしら?
特に書くことも無いのだけれど 。
「問題とされているのは……こっちの世界の人間でも体調不良のリスクがある島に、異世界の人間である勇者を長時間滞在させて良いものかどうかよ」
「召喚時にかなり頑丈さは付与されてるでしょ」
「待て、犬はどうなる?」
「そうよ、犬だって異世界の犬じゃないの」
私は手を叩いて全員を静かにさせた。
なんだか前世を思い出すわね。
「ハナちゃんは聖女なので、常時結界が展開されているから影響を受けない。むしろ周囲の死霊たちを保護しないと消し飛ばされる可能性がある」
「怖ッ」
「犬だと調整も効かないからなぁ」
「あんまり勇者の言うことも聞かないっぽいし」
「勇者の祖父母が飼ってた犬だから、勇者はハナちゃんの主人じゃないのよ」
「友だちか」
「それか保護対象」
「勇者より年上だもんなー」
日本犬という気質を加味すると、ハナちゃんにとって勇者は守るべき家族ではあるが主人ではない。
言うことを聞かないのは、犬種的に当然なのかもしれないのよね。
「なので、勇者と王子殿下、他メンバーの短命種の健康を考えると結界を張って安息地があったほうがいいかと」
「短命種……ニーヴとアライン以外全員じゃん」
「フェンリルとエルフは問題ないのはわかる」
「なるほどー」
「で、その結界をどういう形で置くかよ」
ようやく本題に入れたわ。
私は好き勝手に発言するメンバーを、黙って眺めた。
「最後の村とかロマンだよな?」
「怪しすぎて立ち入らないんじゃ……?」
「あの島で普通に生者の村がある方がおかしくない?」
「精霊系の村なら行けるんじゃね?」
「精霊は相性悪そう。闇系なら頼めば雇えるかもしれんけど……」
「村とか宿屋とかは逆に怪し過ぎるでしょ。孤島なのに、普段の物資調達はどうなってんのって話」
「一応森とか草は生えてるぞ」
「何言ってるのよ、全部毒草とかじゃないの。木だって変質してるし……」
私はもう一度手を叩き、口を開いた。
「私からの提案は、村は滅びているけれど結界だけが残っている廃墟。それなら人員を割かなくてもいいわけだし」
「予算がかからないのは嬉しい」
「あー、どっかの廃村をそのまま移設でいいんじゃないか」
「廃村なら西方面の島にあるんじゃない? 千年くらい前の火山の噴火で駄目になったやつ」
「あ、じゃあ俺が明日見てくるわ」
ゼグがそう言うと、ティティが飛び上がった。
「私も行くゥ〜! フレスベルグも行くでしょ〜?」
「うん? じゃあ行こうかなー」
「じゃあ三人で見てきて。良さそうだったら私とネモで移設しちゃうから。古そうに見せかけた結界は、ジューンに任せていい?」
カルミラが立ち上がり、私の方を見て首を傾げた。
「いいわよ」
(一日で決まって良かった……)




