店主
ホムンクルスの素材屋の店名は無い。
魔界の群島のかなり北寄りにある、小さな島に店主が一人だけで住んでいる。
激しい潮流に囲まれていて、転移じゃないと到達不可能。
(転移するには一度誰かに連れて行ってもらう必要があるから、実質一見さんお断りと言ってもいい)
店主は水の精霊の一種と言ったらいいのだろうか。
ウンディーネたちは女性が多いが、稀に男性もいる。
同じ種族ではあるが、ウンディーネは女性という認識が一般的なため男性形である彼らはウンディーネとは名乗らない。
姿は人間っぽいので、鑑定するか名乗って貰わないと判別が難しい種族だ。
「相変わらずねぇ」
今にも崩れそうな掘っ建て小屋を見た私は、思わず呆れて呟いた。
木造だというのに数百年そのままなのだ。
「雨漏りはこないだ直したぞ」
「ああ、そう……」
「で、何の用だ?」
店主が氷のような薄青の瞳を細め、訝しげに私を見た。
「んー、面白そうな素材があれば欲しい。あと、十二歳くらいの龍人の男の子に良さそうな回路と素材があれば」
「なら、まずは小さいものから作ってみるのが一般的だが……男の子か。ならロマン枠でドラゴンとか──」
「いいわねぇ、きっと喜ぶわ。サイズは?」
「ちと難易度は高いが、二十センチまで小さく出来る」
店主はニヤリと笑って、私に座れと手で指し示した。
「二十センチとは相当小さいわね」
「机の上でウロウロするタイプなんていいんじゃないか? 鉛筆を削ったり、消しゴムを差し出してきたり」
「それは可愛いわね……」
「小さいサイズになるから回路はオーダーな。一ヶ月くれ」
「いいわよ、急いでないから」
「素材全部こっちで揃えてセットしていいのか?」
「お願いしたいわ」
「回路と縮小龍体ホムンクルスのセットは進呈する。……これで貸し借りなしでいいな?」
「いいわ。良い回路作ってよね」
「承った」
難易度高めとはいえ、玩具枠のホムンクルス。
それにホムンクルスマニアのフレスベルグが見てやれば、間違いなくきちんと仕上がる。
中々良いプレゼントになるんじゃないかしら。
あの店主が溶岩に落ちた時、見捨てないで良かったわ。
(さすがの水の精霊でも溶岩に落っこちたら、長くはもたないものねぇ…)
人助けはしておくべきだ。
今回みたいに、オーダー回路のような高級品で返って来ることもある。
まあ、店主を吹き飛ばして溶岩に落としたのは、どこかのリヴァイアサンとポチなんだけどね。
店主はそれに気付いてないから、私も何も言わない。
昔、ポチは水中でも自由自在に動けるので海の底で遊んでいたところ、リヴァイアサンの縄張りに入ってしまって喧嘩になった。
リヴァイアサンは卵は産みっぱなしで放置だけれど、子育て時期は気が荒い。
海龍の場合、子育て=お腹に卵がある時期なので……揉めた相手は雌のリヴァイアサンだ。
海中で揉めてるのを空から見守っていた私は、ポチが水面から尾で何かを打ち上げたのを見た。
それはかなり遠くまで飛んでいき、火山に墜落。
墜落前にウンディーネ系だとわかったので、追って行って一応回収したのだ。
(ほんと、間に合って良かったわ。落ちて数分だったから命に別状もなかったし)
ポチがやらかしたことはちょっと責任感じちゃうのよね。
甘やかし過ぎたもので。
ちなみに喧嘩はリヴァイアサンが逃げていって終わったけれど、ポチが縄張りを占拠したわけではなかったので数日後ちゃんと戻って来ていた。
ポチの本来の舞台は空だから、無駄な喧嘩だったと思うわ。
(今はほとんど温泉に沈んでるけれど……)
ひよこ島に戻り、沈んでるポチを確認して温泉の周囲をチェック。
龍たちの卵は全て孵ったようで、ようやくスッキリした景色になっている。
「海岸も見ておくか」
そのまま崖下に飛び降りて、海龍の卵を確認。
「あら、もう屋根が設置されてる」
ここ掘れ組は仕事が早い。
リヴァイアサンの卵付近は、温泉水を通すように隙間が多い柵で囲まれている。
しっかりした三角屋根も付いているので落下物があっても安心だ。
(これで、ここは放置でいい。産まれたら勝手に海に入っていくらしいし)
古龍に近い種族のリヴァイアサンには、あんまり手をかけない方がいい。
ポチみたいになったら大変だもの。




