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「これは南の文房具屋のノート、こっちは東の店の魔法ペン──」
アマネが戦利品をフレスベルグに見せびらかしている間、私はその様子を静かに観察した。
魔力の乱れはない。
黒い髪はフレスベルグと一緒だけれど、この子の髪は硬そうだ。
肌は健康的な小麦色で湿疹や乾燥もなさそう。
黒曜石のような丸い瞳はキラキラと輝き、心身ともに凄く健康そうだ。
「ジューンにはこれ」
アマネは私たちにも一本ずつ魔法ペンをくれた。
私が受け取ったのは紺色に銀のラメが散りばめられた夜空のようなペン。
「まあ、とてもきれい……ありがとう」
彼がレスターの方に向かっていったのを見計らって、私は横にいたミシュティに囁いた。
「ねえ、お土産のお金どうしたの」
「アマネさん、お小遣いいっぱい持ってましたから立て替えたりはしていません」
「ああ、カルミラやネモから金貨何枚か貰ったって昨日自慢してたわね……」
「龍人の方々にも大変可愛がられているようで、白銅貨も沢山持ってましたよ。でも金貨は大事に取っておきたいらしくて、悩みながらお買い物していました」
お小遣いで買ったなら、良いんじゃないかな。
何か喜びそうなものをお返ししよう。
少し離れた場所に座っていたレスターの方から、歓声が上がった。
近寄って話を聞いてみると、ペンのお礼にレスターがアマネに丁度いい片手剣を打ってあげる約束をしていた。
「身体に合わせたサイズが大事だからな。明日うちに来いよ、鍛冶やってみるか?」
「やりたい!」
「俺もやりたい」
「剣は俺が打つし、明日すぐには出来ないぞ」
「じゃあ何?」
「文鎮だな」
男性陣は、盛り上がっている。
どうやら明日は鍛冶教室らしい。
(なるほど、初心者だからペーパーウェイトを作るのね)
自分の命を預ける武器となると、さすがに熟練者じゃないと難しいものね。
「王都の拠点だが」
レスターが私の方を見て話題を変えた。
「あなたの?」
「俺とフレスベルグのだ」
「ああ、この屋敷を使いたい感じ?」
「その通り。話が早くて助かる」
部屋はいっぱい余ってる。
私自身がここに定住しているわけではないので、シェアするのは構わない。
「フレスベルグは門番のホムンクルスを一体とその維持を提供する。俺はジューンに金を払う」
「いいわよ、私も時々しか滞在してないし」
「俺たちも時々だから、煩わせることはそうそうないと思う」
「泊まるような使い方はせんよ。転移の座標として使うのが目的だ」
レスターは私の部屋から一部屋あけた位置、フレスベルグはミシュティの部屋の横のメイド部屋を選んだのだけれど。
アマネを連れてくることもあるだろうからと、真ん中付近の大きめの部屋になった。
(龍人の子が出入りするとなると……全てに不壊の魔法をかけたほうがいいわね……)
買い替え出来るものなら良いけれど、壁とか床は壊されたら面倒だしフレスベルグの財布が死ぬ。
簡単な約束事だけ決めておくということで……。
ミシュティ不在時は厨房には入らない、自室以外には入らない、他人は基本招かない。
どうしても事情がある時は玄関横の小サロンのみ使用可。
今いる大サロンは共有、ということになった。
騒がしい人たちが帰って静けさを取り戻したお屋敷で、ミシュティがせっせと掃除を開始した。
邪魔になってはいけないので、自室に行って手紙の仕分けでもしよう。
王都の新居の自室は、ひよこ島とはまた違った雰囲気だ。
あっちの自室は黒っぽい調度品で統一されているけれど、こちらは無垢材が主体で明るく自然な雰囲気だ。
(一体フレッドはこのお屋敷に幾ら掛けたのかしら……)
「あら、ホムンクルスの店のチラシ。珍しい……」
魔界には数多くホムンクルスの店があるけれど、この店チラシはかなりマニア向けだ。
まず、完成品は売っていない。
一部の部品と素材だけである。
一般的なホムンクルス店は完成品を売るお店なので、それが無いと言うのはかなり尖ったお店なのは間違いない。
「ふうん、棚卸し前の一掃セール……製作の相談もお気軽に」
アマネへのお返しはこの店に行って選ぼうかな。
初心者にちょうどいい物があれば、だけれど。
あの店主はマニアックなだけに知識も膨大だから、相談させてもらおう。




