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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
スローライフ所望のエルフ

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店舗


 ミシュティとアマネは朝食後、張り切って出かけていった。

 私は一旦ユーニウスたちの世話をしにひよこ島に行き、戻ってきたらテーブルの上に流麗な文字の手紙が置いてあった。


 (……フレスベルグの字は綺麗ね。レスターのは汚いけど)


 メモにはマサオと春男が来て商談がまとまったので、四人で物件の契約に行ってくる……とある。


「展開が早いわねぇ」


 まだ何もない庭園に出て、暖かくなったら何を植えるか考える。

 とりあえず隣屋敷の庭園の景観を損ねないよう、配慮はすべきだろう。

 そうなると高さのある生垣は不適切。


 (うーん、腰まで位の生垣で良いのかしら)


 庭園に面していない三方向はおしゃれな石の塀になっている。


「あ、認識阻害でいいか」


 石塀は高さがあるから目隠しにはなっているけれど、ついでだから外周全体に認識阻害を仕掛けておこう。

 外から見ようと思っても、ぼんやり視界がバラける感じで。


 (さすがに隠蔽までやると周囲に怪しまれそうだし)


 魔法をかけ終わり、満足して室内に戻るとレスターとフレスベルグも帰ってきた。


「飲み屋街の小さい物件買ってきた」


「ええ? 買ったの?」


「小さいが独立した建物で、元々ラメン屋の物件が居抜きで白金貨二十五枚だった」


「ふうん?」


「最初に集まってた十九枚じゃ足りなかったから、追加で七枚俺が出した。むろん、魔法契約で月々返してもらうことになったがね」


 レスターが機嫌良くそう言って、ソファーに身を預けた。


「合計二十六枚の出資? 随分至れり尽くせりね」


「居抜きだから、一枚分余裕あれば仕入れも問題ないだろう? なに、同郷だからな。それに損はしていない」


 出資者は店が存続する限り、月に二度無償で好きなラーメンを食べられる。

 ……ということで合意したらしい。

 レスターからの個人出資は無利息で十年ローンなんですって。


 (こっちではラメン、でも前世持ち同士で話すと無意識にラーメン。どこで脳が切り替わってるのかしら。まあ、通じればどっちでもいいけれど)


「人間社会にも転移した日本人コミュニティがあるって言うし、そっちからも人手は確保出来るって言ってたぞ」


 フレスベルグが呑気に呟いた。


「コミュニティねぇ。なんかこの世界って非営利団体の概念はないけど、コミュニティはやたら多いのよね。そういう役割を果たしているってことかしら」


「そうだと思うぞ。こっちで無償ボランティアなんてやってみろ、食い尽くされて終わりだ」


「街頭で寄付募ってる人も見かけないよなー」


「帰路で運が悪ければ寄付金強奪されて終わるからな。それに非営利団体が無いんだから寄付金募る理由も無いだろ」


「うんうん」


 フレスベルグがレスターの言葉に納得したように相槌を打った。


「ジューンはなんのコミュニティに入ってるんだ?」


「エルフのコミュニティ二つに入ってる。あと魔法陣愛好会」


「エルフのコミュニティ」

「協調性が気になるところだな」


 私は小さく息を吐いて、二人の方を向いた。


「協調性なんてあるわけないじゃないの」


「だよなぁ、ちなみにエルフのコミュニティって何やってるん」


「同じコミュニティのメンバーには奇襲しないという絶対条件があるわね、どこのコミュニティも」


「そもそもなんで奇襲が前提?」


「良くあるからよ」


「…………」


 フレスベルグは困惑しつつ、コーヒーを自分でカップに注ぎ座り直した。


「奇襲以外ならいいのか?」


「いいのよ。あとはそうねぇ、子供がやらかしたことへのお見舞金制度とか」


「なんで子供だけなんだよ」


「基金が火の車だからよ。メンバーの子供がコミュニティメンバーの所有物を悪意なく損壊しちゃった場合のみ適用されてる」


「悪意。エルフが言う悪意って……?」


「殺意の有無ね。殺意がなかった場合は同コミュニティメンバーは目くじらを立ててはいけない。子供にはね」


「子供には」


「そう。被害を受けたメンバーが、その親へ報復するのは管轄外」


「なんかさ、エルフ社会って世紀末だよなぁ……」


「そうね。エルフの私もそう思う」


 そう言った途端ドタドタと走り回る音が聞こえ、すぐ静かになった。

 どうやらミシュティとアマネが帰ってきたようだ。

 中々サロンに来ないので、様子を見に行くとアマネは手を洗いながらミシュティに小言を喰らっている最中だった。


「廊下は走ってはいけません。ああ、爪の間もちゃんと洗わないと──」


「わかった!」


「手を拭いたら……あっ、ジューン様。ただいま戻りました」


「みんなのお土産買ってきたよ!」


 どうやら、アマネにとってはとても楽しい王都見学だったようである。


 さっき走って小言を言われていたはずなのに、どこ吹く風。

 ご機嫌なアマネは、大荷物を抱えてサロンへと走り去っていった。


 

 


 

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