夜食
レスターとフレスベルグが泊まっていくと言うので、ミシュティがアマネを迎えに行き明日の夜まで世話をしてくれることになった。
アマネは自分もラーメンが食べたかったとむくれていたが、明日はミシュティと王都を見て回れると知って大喜びで飛び上がった。
「ケット・シーの添い寝だと……? くそー、子供羨ましい」
フレスベルグは少し悔しそうにつぶやく。
アマネは思春期がくれば添い寝拒否するのだろうけど、今は全く問題なく仲良く寝ることにしたようだ。
寝る前にホットミルクを貰いたくて、ミシュティを追ってキッチンに走っていった。
「まだお腹が空かないわ」
ため息をつきながらハーブティーを飲む私に、フレスベルグが首を傾げた。
「食ったの昼じゃんか。もう夜だぞ……?」
「ラーメンは美味しいから食べちゃう、でもものによっては空腹がこないのよね」
「麺半分でもヤサイマシマシだったもんなぁ」
「ジューンってすごく強いけど腹は弱いんか?」
「弱くはないと思うんだけど、あなたたちと比べると全然よねぇ。ラーメンもっと食べたかった」
ミシュティがレスターたちにパスタを出しているのを眺めながら、私は二杯目のお茶を飲んだ。
「よし」
レスターが満足げに頷いた。
「聞け、フレスベルグ。出資者が二十三人、総額白金貨十九枚だ。」
「マジかよ。俺も出す」
「お前……金あるのか?」
フレスベルグはドヤ顔になり、胸を張った。
「最近ホムンクルスを売ってる。完全カスタマイズ、マニア向けの」
「ほう……? お前、ホムンクルス製作は得意だもんな」
「猫美を見て欲しいって言うヤツ多いからな。回路は一般的な市販メイド回路で、外側だけ拘ってる。回路までカスタマイズは、今は手が回んないからな……」
「勇者が帰るまではそうだろうな」
私はぼんやりと二人の会話を聞き流しながら、三杯目のお茶を注いだ。
(さすがに買うのは厳しいけれど。それだけあれば小さい物件なら借りられるし、内装も仕入れも大丈夫そう)
「なあ、レスター。あの二人をその倶楽部に入れれば良いんじゃないか?」
「それは無理だろうな。転生者であることが条件だから、我々は出資止まりだ」
「あ、転生者の倶楽部だもんなー」
バンバン!
厨房の方から大きな音が聞こえてきた。
身構えるフレスベルグとレスター。
私はため息をつきながら呟いた。
「あれは──パンを作ってる音だと思う」
ぞろぞろと厨房へ見に行くと、ミシュティの監督のもとでアマネがパン種を作業台に叩きつけている。
「素晴らしいですわ! これだけ強く叩きつけることが出来れば、完璧に発酵ガスが抜けます!」
「任せてー、力仕事は男の仕事だってフレ兄も言ってた!」
「まあ! 紳士でいらっしゃるのね。素敵です!」
「今からパン……?」
あちこち小麦粉だらけになっているが、楽しそうで何より。
「あ、ジューン様。これは殿方たちのお夜食なのですけれど、アマネさんが作ってみたいとのことで一緒に作ってました」
「へえ。ガス抜きが大変だものね。アマネがやってくれるなら良いじゃないの」
「はい」
「いいな、焼けたら俺にもちょうだい」
「うん。ウインナーロールとクリームパン作る」
「ジャムパンもですよ。生地は同じなので」
「ふうん、同じ生地で色んなのが出来るっていいな。僕はチョコ入れたいんだけど」
「ふふっ。なら、チョコクリームを作りましょう」
「うん!」
成形してパンが焼き上がるまで一時間ほどかかるとのことで、私たちはまたぞろぞろとサロンに戻った。
「意外と器用だったな」
レスターの言葉に、フレスベルグがわが意を得たりとばかりに弟自慢を始めた。
「ちょっとホムンクルスの作業手伝わせたら、上手いんだぞ」
「ほう。飲み込みがいいのか」
「そうそう。こっちがちゃんと準備してれば事故は起きないし……って危険な作業はまださせてないけどな」
フレスベルグのホムンクルスのボディはスライムである。
無菌室で魔力水を与えて育てられたスライムは、そこそこ高価な素材なのだけれど使う価値はある。
スライム素材は肌の質感、なめらかさが評価されている。
ただ、使用できる状態にするには劇薬を使うものでフレスベルクはアマネにはまだ早いと判断しているようだ。
(龍人の子が絶渦酸でどうにかなるとは思わないけれど……温度やタイミングを間違えば素材をドブに捨てることになるものね)
夜も更け、焼いたパンは全て無くなった。
私とミシュティはジャムパンを一個ずついただいた。
数十個は男性陣のお腹の中、である。




