出資
「お、ジューンも来たのか」
赤毛はそのままだが、レスターも角を隠して普通っぽい雰囲気になっている。
フレスベルグもちゃんと茶髪の人間姿だ。
(まあ、フレスベルグは元々人間と大差ない見た目だし、魔王姿もそこまで元に近くないのだけれど……)
だが、そのままだと美形すぎて目立つのが嫌なのだろう。
そこらにいる兄ちゃんって雰囲気に変じてる。
「めっちゃ繁盛してるな? 男の客ばっかりだけどさー」
「今までラーメンと言ったら醤油かコンソメっぽいものしかなかったからな。これは繁盛するのはわかる」
フレスベルグの言うとおり、二十人以上いる行列の女性客は私を入れて三人だけ。
「なぁレスター、これ何がオススメ?」
「お前なら全マシマシカラメだな」
「よし、それにしよう」
「茹で前300グラムが基本って書いてある」
「……足りないな」
(くっ、半分で苦戦したとは言いにくい……)
「半額だから銀貨一枚だろ。麺を増やすのは……ああ、下に書いてある。倍までは無料らしい」
「んじゃ倍にしよ」
マサオの屋台は大人気らしく、今日はもう一人スタッフが増えている。
「しかしなぁ」
レスターが屋台を眺めながら呟いた。
「転移ラメンって……なんというかフレスベルグっぽい何かを感じるな」
「なんだよー」
確かにネーミングセンスはフレスベルグっぽい。
そもそも春男もマサオもノリが似ているから、絶対仲良くなれそうなキャラだ。
「あっジューン。また来てくれたのか」
春男が嬉しそうに叫んだ。
「凄く繁盛してるわね」
「動線が混乱するって苦情が入ったから、屋台は明日で撤退になっちゃって」
確かにテーブルが増え、人の流れが滞留してしまっている。
噴水周りはぐるっと屋台だから、行列がずっと続くのも問題があるものらしい。
「ふむ」
レスターが考え込んだ。
「おお? なら今日来て良かったな」
「そうだな」
注文を済ませ、私の前には先日と同じ量のラーメン。
フレスベルグとレスターの前には巨大な丼、高々と野菜と肉の山が盛られている。
「大きいわね」
「うまっ」
「旨いな」
「米、米欲しい」
「うむ」
結局、私以外はまさかの二杯目。
さすが魔族といったところか。
途中、スープが無くなって大声で店じまいを周知したマサオと春男がテーブルにやって来た。
「いやー、いい食べっぷりですね二人とも」
「まじ美味い」
「うむ、美味い」
「米が必要だぞこれ」
「あー、店舗だったら米も出す予定だったんですけどねぇ、この借りた屋台じゃ難しくて」
「店舗か。出店予定はあるのか?」
「幾つか候補はあるんですけど、自分ら転移して間もないんで先立つものが無くて、ははは……」
力無く笑ったマサオ。
春男が続けて状況を話し始めた。
「王都は物件も家賃も高いんだよねー。かと言って郊外じゃ売り上げも厳しいだろうし」
「だろうな。相場は?」
「繁華街付近だと──」
何故かレスターが身を乗り出している。
(よほど気に入ったのかしら……?)
その後、ミシュティにお茶を淹れてもらって王都の新居でのんびり雑談していると、レスターがマサオの店に出資すると言い出した。
「転生日本人紳士倶楽部というものがあってな」
「はあ? なにそれ」
「魔界にいる前世が日本人のコミュニティだな」
「なにそれ入りたい」
「いいぞ、紹介してやろう」
無言の私をチラ見して、レスターがにっこりと悪そうな笑顔を浮かべた。
「残念ながら淑女倶楽部はない」
「あったって入らないわよ! なんなのよ、紳士倶楽部って」
「なにって……名前そのまんまだぞ、前世も今世も男性の日本人転生コミュニティだ」
フレスベルグはさっそく入会用紙に書き込んでいる。
「レスター、うちのアマネも条件満たして……」
「未成年は不可だ」
「なるほど」
今まで聞いた中でも一番怪しいコミュニティな気がするわ。
「いったいメンバーはどれくらい居るの」
「三十人くらい」
「思ったより多いわね……」
「魔界だからな。ああ、条件はもう一つあって長命種であることも大事だ」
(なるほど、長命種ならその人数でも不思議じゃない。寿命での脱落者が滅多にいないものね)
「先ほど◯郎系ラーメン発見の書簡を飛ばしたところ、既に出資したいというメンバーが十七人」
レスターは仕事が早い。
その気質はこういうところにまで表れているようだ。
ラーメン食べ終わってまだ二時間足らずなのに。
「店主とは明日面談する予定だ」
「早ッ」
「この屋敷のサロン借りていいか?」
「いいわよ……好きにしてちょうだい……」




