境界
「噂はともかく、ミシュティ強いじゃん?」
フレスベルグは猫美ちゃんから焼き菓子を受け取り、口に放り込んだ。
「強いのは間違いないけれど……うーん。その四天王って絶対必須なわけ?」
「は? 必須だろ。四天王だぞ、四天王」
「死霊が五万、魔王レベルの中ボスが四人。勇者パーティの体力がもたないんじゃ?」
「んじゃ休憩用に勇者パーティ用の宿屋建てようぜ!」
「はぁ……。宿の主人とか受付誰がやるのよ。そもそもそんな怪しい宿屋にあなたが勇者だったら泊まるわけ?」
「……………………」
「死霊が多いから、空気が良くないでしょう。人間とか普通の犬に長居は毒だと思うのよ」
「あ、確かに」
「健康被害が出ないのは三日くらいが限度よ」
「なら、ハナはおじいちゃんだから危ないんじゃ」
「ハナちゃんは聖女だから平気なのよ。ハナちゃん、ニーヴ、アライン以外は影響受けると思う」
「そうかー? 毒ガスもないし、大丈夫じゃね?」
「死霊と私たちって生きてる世界がちょっとズレてるのは知ってるでしょ」
「うん」
「ラウバッハたちは、冥界にいるわけじゃない。この世界と冥界の境目に存在している」
「境界だな」
「そう。だからあの島は境界と言ってもいい。そんな場所に普通の人間が滞在したら具合悪くなるのよ」
ちなみに、冥界は地獄ではない。
死者の世界と言われているけれどちょっと違う。
成仏しないことを選び、生者と関わることを拒んだ者たちの世界だ。
もちろん魔物はいるけれど、こっちより平和な世界と言ってもいい。
食事も必要とせず、競争も争う理由もない。
稀に怨霊クラスの者が来た場合は討伐されてるらしいし。
冥界は争いを好まない優しい世界なのだ。
「うーん、三日かぁ」
フレスベルグは考え込み、黙り込んだ。
「宿屋が何故そこにあるかってところからよ? 他島と交流もなければ住民もいない。じゃあ何で宿屋があるのか」
「そこからかよ……」
「勇者パーティの体調管理のために疑似村を設置するのはアリかもしれないわね」
「お、いいなそれ」
「次回の会議で提案してみたら? 境界から切離した普通の空間を提供するということで」
「そうするかぁ。それっぽい村民ってどの種族だろーなー。ゴブリンはNGだよな?」
「ブハッ、ゴブリン! でも意外とミスマッチじゃない気がするわね。無邪気だからどこにいても違和感無いし」
「妖精だから境界耐性も高いだろ、ただ宿屋は厳しいよな……?」
「受付だけどんぐり歌劇団から雇う? 夢魔とかドッペルゲンガー種族ならゴブリンに化けられるだろうし」
フレスベルグはひくひくと口の端を痙攣させた。
「待て。まともな応答をするゴブリンはやばくね?」
「……確かに怪しすぎるか」
「ゴブリンは無しだ、無し」
「そうね。ゴブリンと言えば王都の居酒屋に……あっ!」
「なんだよ」
「王都に◯郎系ラーメン店が出来てたわ」
フレスベルグが椅子を倒し、立ち上がった。
「まままままじでー!?」
「美味しかったわよ」
「俺さぁ、食べてみたい食べてみたいと思いながら退院出来ないでこっち来ちゃったから」
「うん」
「二◯系食べたことないんだよー、明日早速行ってみようかな」
「人間に擬態して行きなさいよ」
「もちろん。えっと、コールなんだっけ」――
「ニンニクマシマシ、ヤサイマシマシ、アブラマシマシ? 多分そんな感じ。屋台の紙に書いてあったわ」
「緊張してきた!」
「あ、半額は今日までで銀貨一枚。明日から二枚っぽいわね」
「じゃあ今から行ってくる!」
フレスベルグは転移して居なくなった。
私は呆れつつも猫美ちゃんに挨拶をし、ひよこ島に戻ることにした。
(あ、レスターもラーメン好きだった気がする。一応教えておくか)
五分も経たずに返信が来た。
さっそく王都に行くとのこと。
『細ストレート麺の豚骨派だが、◯郎も好きだから今すぐ行ってくる』
(今、フレスベルグも行ってる……多分まだ並んでる)
フレスベルグが騒ぎを起こしても困るし、レスターも超長命種だからどこかズレてる。
常識人の私がお目付け役として行かないとダメなのでは……?
「私も行くべき、よねぇ」
王都の物陰にこっそり転移して、屋台に向かうと最後尾にレスターとフレスベルグがいた。
フレスベルグはレスターを見つけて、並び直したっぽい。
(このまま監視するかラーメン食べるか……悩ましい)




