転居
「あ、やっぱり引っ越すんだ」
「うん、もっと頑丈な家じゃないと無理だ……!」
フレスベルグは頭をテーブルに打ち付けた。
「あなたそんなお金あるの」
「ある! カルミラとネモおじさんからお祝い金貰った。あと龍人コミュニティが家を建ててくれた」
「龍人コミュニティが?」
「ロペさんが言うには、龍人の子供なんて数千年ぶりだし使い途のないコミュニティの積立金を回すからって」
(確かに超長命種たちのコミュニティって、お金だけはあるのよね)
積立金と言っても、銀貨数枚レベルの月会費である。
私もエルフのコミュニティに月に銀貨五枚払っている。
まあ、エルフコミュニティは他と違って会計面は火の車状態だけどね。
他者に賠償すべき事案が後を絶たないもので。
なので、エルフコミュニティの場合は数百年前から『子供のしたこと』による重大な損害しか相談に乗らない方針になっている。
龍人コミュニティは平和だから、数千年分の支出がない状況なのだろう。
家一軒分なら余裕なんでしょうね。
「良かったじゃないの」
フレスベルグは自分の家の居間を見渡した。
釣られて私もあちこちに視線を走らせる。
「……壁、何回直したの」
「七回。窓ガラスは数えるの辞めた」
「アマネが暴れてるの?」
ふう、とフレスベルグがため息をついた。
「いや、暴れてはいない。ただ……パワフル?」
「素直で活発なのは知ってるわ。食いしん坊なのも」
私の言葉に、フレスベルグは頷いた。
「そうなんだよ、全く悪気はない。力加減がおかしいだけでさぁ」
「ロペさんが龍人の子供は本当に大変って言ってたものね。龍の因子のせいで身体制御と魔力制御が他種族と全く違うルールで構築されてるって」
「育てるって啖呵切ったのはいいけど、俺は父親にはなれそうにもないなぁ。あいつは弟だ、弟」
「いいんじゃない? 年だって五百歳くらいしか違わないし。年齢で見たら兄弟の方が自然よ」
猫美ちゃんがそっとお茶のおかわりを注いでくれた。
この猫耳ホムンクルスは本当によく出来ている。
ただ、メイドとして有能ではあるが力仕事には不向き。
「あ、でも十二歳だからさ。言えばわかるんよ。ここが壊れやすいのがアマネに向いてない。引っ越して耐久性ある環境のほうがお互い気楽かなーって」
「なるほどねぇ。いつ引っ越すの」
「明日。アマネは家庭教師と一緒にコミュニティの人たちと魔界巡りの旅行に行ってるから」
「荷物は時空庫でいけるし、一日あれば充分だものね」
「そそ。家具なんかは龍人の人たちが育児してたころに使ってたのを譲ってくれて」
「普通の家具とは違うの?」
「あー、うん。見た目より頑丈さを追求してる感じ?」
引っ越せば猫美ちゃんにもまた個室があたるだろうし、いいタイミングなんじゃないかな。
場所はレスターの近所になるみたい。
超長命種が多く、龍人も数名住んでいる島だから良いんじゃないかな。
「でさ、勇者なんだけどさー」
「ん? 勇者?」
「あいつ、剣聖持ってるじゃん? 最近、複数斬撃飛ばすようになってて怖い」
「当たっても死なないでしょ!」
「いや、痛いの嫌じゃん。弾き返したら殺しちゃいそうだし」
「避ければいいんじゃないの。それか風魔法で吸収しちゃうか」
「風魔法は苦手。水盾か闇壁にしようかな」
「聖魔法はやめておくのよ、ラウバッハに借りた死霊たちの体調が悪くなるかもだし」
「中ボスにラウバッハ出てくれんかな」
すきま風がカタカタと窓枠を揺らす。
(この家、もう崩壊しそう……)
「ラウバッハ? 無理よ、勇者死んじゃうわよ」
「ダメか……」
「なんでラウバッハを?」
フレスベルグは驚いた顔で私を見た 。
「だって、四天王は必要だろ?」
「今から探すほうが大変じゃないの」
「ティティとベイリウスとミシュティは引き受けてくれたぞ」
「は? ミシュティ? あなたうちのメイドに何させる気!」
「ミシュティはジューンが良いって言ったらって言ってた!」
「ダメに決まってるでしょ、怪我したらどうすんのよ!」
(あれ、ミシュティって……人間との戦闘で怪我……する……かな?)
「…………嫌、でもダメよ。戦闘苦手だって言ってたし!」
フレスベルグが身を乗り出した。
「あの魔界一凶悪な家政学院を首席だぞ?」
「えっ、凶悪なの?」
「敷地に迷い込んだだけで二度と帰ってこれないとか、実験材料にされるとか……不穏な噂には事欠かないぞ」
「家政学院で何の実験するのよ。家事よ、家事妖精の学校なのよ」
(あ、でも死傷者や行方不明が多いとは聞いた気がする……)




