思案
「……喉が渇きました」
ミシュティがカフェに入りたそうだったので、ラメンを食べたあとに一休みすることにした。
「確かに、ラメンは喉が渇くのよね」
「食べたことのないお味で少々戸惑いましたが、すごく美味しかったです。今度家族を誘おうかと思うくらい……」
ミシュティのお父さんは料理人だものね。
きっと食べたがるんじゃないかしら。
「多分、母以外は好きだと思うのです」
「あら、そうなの」
スタッフが来たのでミシュティは紅茶、私はコーヒーを注文した。
「うちの母、好き嫌いが激しくて。パスタ以外の麺類は食べないんですが……」
「汁が嫌なのかしらねえ」
「それが、そう思って誘わないと怒るんですよ……で、食べることもあるんです」
「そうなのね。あ、コーヒーは私です」
飲み物が来たので、ミシュティがミルクを入れるのを見守る。
大きな青い瞳はコーヒーに添えられたミルクを捕らえ、私の顔に視線が移った。
「…………」
私はその視線に敗北してコーヒーにミルクを入れることにした。
主人の胃を心配するメイドには逆らわないほうがいい 。
「まあ、母親というものは理不尽なのよ」
「理不尽……確かにです」
「お母さんの模様はどうなの?」
ミシュティはパステル三毛、弟たちはキジトラ。
お父さんはロシアンブルーみたいな毛皮だった。
だが、私はまだミシュティの母親は見たことがないのだ。
「母はサバトラ柄です。魔馬牧場の方の祖母はサビ柄で、祖父は真っ白です」
「見事にバラバラねぇ」
「母の方の祖父母は黒とミルクティーみたいな色なので、本当にバラバラです」
「いいわねえ、どの模様も素敵だわ」
ケット・シーの遺伝は一体どうなっているのだろうか。
妖精なので猫のような遺伝ではないのはわかるけれど、ここまでバラバラだということは……。
(特に決まりはないのかしらね?)
可愛いは正義だから、模様はさほど重要ではない。
そもそも可愛くないケット・シーは存在しないと思うし。
カフェを出たあとは、再び家具屋巡りだ。
基本的にテーブルや棚などの大きいものは、オーダー制なので気に入ったものを幾つか見繕って注文だけ済ませた。
実寸の展示品を置いてない店舗が多いので、ミニチュア模型を見て選んでいくのだ。
店によっては郊外に倉庫を持っていて、在庫がある場合もあるけれど。
サイズや素材も好きに出来るから、急がないならオーダーメイドが一番失敗しない。
「あとはカーテンと絨毯くらいです」
「なんだか屋敷をもらったのはいいけれど、忙しくなっちゃったわね」
「一回揃えてしまえば、落ち着くと思います」
「そうね」
私は用事があるというミシュティと別れ、お屋敷に戻った。
「ふぅ。今日はここで寝ようかな」
先日まで借りていた第五王子殿下の乳母の家は、引き払い済みだし鍵も返却してある。
私は自分で防犯魔法を組めるから、鍵なんて要らないのだけれど。
それがない人は普通に鍵を使うものだから、一応どんな家でも鍵は存在してるのよね。
(鍵を掛けてても安全とはいえないのは、どこの世界も一緒)
でも、かけないよりはずっといい。
私は猫足の大きな浴槽に湯を張り、のんびりと湯浴みを楽しんだ。
広い浴室は色とりどりの美しいタイル仕立てで、いい雰囲気。
ヘレナさんはこんな素敵なお屋敷より、息子のそばがいいのね。
気の強いおばあちゃんだけれど、ヘレナさんなりに息子の心配をしているんだろうな。
(自分の息子がオネエと知ったら卒倒するんじゃないかしら)
「知らないほうが幸せってことよねぇ」
真面目に生きてきた厳格なヘレナさんは、フレッド商会しか知らなくていいのだ。
フレッドの裏の顔のアマンダや、裏社会は別世界だもの。
(いくら気が強くて手厳しいと言っても、普通の世界で生きてるただの人)
何でもありの世界では通用しない。
「そう考えると、かわいいおばあちゃんよね」
そう考えると、現実を知って腹を括ったセシリアの方が裏社会に向いてるのかもしれない。
お花畑のままじゃ生き残れないのは、充分理解したように思える。
後は、どう逃げ切るかだ。
「あと二年。ホムンクルスは間に合うと思うけれど、アマンダはセシリアの実家をどうする気なのかしら」
セシリアの未練は今の家族の安否っぽいから、そこをクリアしないと上手くいくものも失敗しちゃいそう。
王族から逃げ切るには、相当な覚悟と準備が要る。
貴族社会って連座制にも似ていて、本当に面倒よね。




