準備
ミシュティは数日ローランに滞在することになり、私はひよこ島に戻った。
今すべきことはバルフィに指示を出すことだ。
内容はリヴァイアサンの卵どうする?という問い合わせに対する返信。
身も蓋もないが、放置するしかないという通達だ。
(屋根だけは作ったほうが良さそうだけど、ゴン太さんが水質調査に来たときに頼もうかな……)
ここ掘れ組に追加依頼の手紙を書き、転送したあとにベッドでごろごろと転がるとソフィーが迷惑そうに影に消えていった。
「甘えん坊期間は終わったのかしら……」
最近はずっとべったりだったのに。
ちなみに、ソフィーの大きさも毛の長さも特に変わりはない。
二本の角が長くなっているかな……?と思うくらいで。
「さて、夕方はカルミラ……」
カルミラを迎えに行って、ラウバッハの城に行かなきゃいけない。
めんどくさいけれど、行くしかない。
勇者イベントさえ終われば、またスローライフが戻ってくるはず。
「…………」
事前打ち合わせのために早めに行くべき?
どうせまだ来ていくドレスすら決めてなさそうだし。
私は黒いワンピースに着替え黄色いスカーフを首に巻き、カルミラ城へ転移した。
「はぁ? 赤いドレス? ダメダメ、黄色にしなさいよ」
「なんでよ。アクセサリーは黄色を準備してあるのよ」
不服そうに歯向かってくるカルミラ。
私はメイドに指示して、黄色系のドレスを持ってこさせた。
「どういうこと、何千着もあるはずのドレスに黄色系が一着もないなんて!」
「だって私に似合わないもの」
カルミラは涼しい顔で、フンッっと鼻を鳴らした。
「エルフの友好儀礼的に、面積の多い服を黄色にするのが一番手っ取り早かったんだけど、無いならまぁいいわ」
「面積の問題なの?」
「そうよ。あなたが魔王組合の頭なんだから。そもそもこっちがお願いしに行く立場なんだから──」
「じゃあ、ドレスは辞めて違うのにする」
カルミラはメイドと共に、ドレスルームから出ていき一時間ほどで戻って来た。
「どう? これなら完璧じゃない?」
「……そうね。非の打ち所がないわ、完璧よ」
「でしょう!」
私の目の前に現れたのは、本物と見間違いそうなレベルの精緻な極陽鳥の着ぐるみだった。
極陽鳥は全体が真っ黄色で、翼の先端部分だけ極彩色な大型の鳥さんだ。
(面積で言うなら、着ぐるみが圧倒的に多いわね。これはエルフ的には好感度高いはず……)
一般的な社会的儀礼とエルフの感覚は全く別物だからこれは、『あり』である。
「んじゃ、いきましょうか」
「ええ。見て、これ翼がちゃんと動くのよ」
カルミラがバッサバッサと翼をはためかせた。
高価な魔導着ぐるみ、しかも鳥。
なんでそんな物を所持しているのか。
「ああ、これ?」
「戴冠式のお祝いのなかにあったの。一応新品よ」
(カルミラの戴冠式……何千年も前の話じゃないの)
王位返上は魔王組合が出来る直前だったから、六千年以上前だ。
つまり、この魔導着ぐるみは一万年ものかもしれない。
「ちゃんと動くのがびっくりだわ」
私の言葉に、カルミラは頷いた。
「動くんだけど、これ昔の着ぐるみだから電極を脇の下と肩周りにいっぱい刺さないと動かないの」
「そんな旧式の? 痛いじゃないの」
「痛いわ。でももう刺しちゃったからこのままでいいわ〜」
「あなたがいいなら良いわ。準備はいい?」
「待って、まだ脚を着けてない」
「うわ、脚めっちゃ本物っぽいわね」
(なるほど、これだけ外見が本物っぽいのは大昔の製品だからなのね)
極陽鳥は残念ながら、とっくの昔に絶滅しているので今同じ物を作るのは無理な話だ。
今の魔導着ぐるみなら回路が組み込まれてるから、スイッチなんだけどな。
頭の先から爪先まで、立派な極陽鳥に扮したカルミラを眺めその黄色さに太鼓判を押したところで。
(あら?)
極陽鳥の美しさは有名だけれど──雌は茶色くて地味だったはず。
派手派手しいのは、雌への求愛のためだ。
(元女王なのに、雄に扮してるけどいいんだろうか……?)
せっかく機嫌良く着込んでいるのに、水を差すのは辞めておこう。
私はメイドから契約に関する書類を受け取り、極陽鳥(雄)と共にラウバッハの島へと転移した。




