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◆入国審査と仮契約

入国審査という名の取り調べかぁ。


男は次に出すべき言葉を考えているのか、視線をあちこちに彷徨わせている。

どうやらバカではないようだ。


「あー……自分から名乗らず失礼した」


男はモゴモゴと何か言い訳めいた謝罪をし、カイと名乗った。

家名が無いのは平民か身バレしたくない貴族か、家名自体が国名の王族。

つまり名前だけ聞いたところで何もわからないし、意味もないのである。

個人識別のための呼び名と考えておけばいい。


男は左手にガサガサと音を立てる質の悪い紙を持っていた。


私は男の出方を見るべく、一歩下がった。

コツ、と静寂の中に靴音が響く。

ああ、また一人倒れたようだ。

私はなにもしてないのに。

この国の兵士、大丈夫そ?


男の持っている紙は私の入国申込書だ。

「名前は家名無しのジューンで間違いないだろうか。種族は…エ、エルフで…年齢は…127…」

年齢は嘘だ。

嘘というか、枠が3桁までしかないので下3桁を書いただけだ。


間違いない、と私は男に返答し何か問題があるのか?と尋ねた。


「──まあ、お座りになったらいかが?」


立ったままだと私が落ち着かないもの。


「エルフ…エルフが直近でこの国に来たのは100年くらい前で…ほぼ前例がないんだよ」


カイは椅子に座りながら、呟いた。


「それって入国審査は、でしょ?この国にエルフが2、3人居るのはわかってるのよ」


それはそうなのだが、とカイは言い淀む。


エルフがどこに行ってもこんな扱いを受けるのには、ちゃんと過去に理由がある。


この世界のエルフはとにかく血の気が多いというか、喧嘩っ早い。

寿命がやたら長い分、生きる事が最優先ではないというのが近いだろうか。

自分の邪魔になると思えばすぐ殺しにかかるし、自分の死にも無頓着な者も多く…歩くテロリストみたいな扱いを他種族から受けているのだ。

徹底した個人主義で家族の情すらない。


私のように最初から家族の居ないエルフは居なくて、大抵は人間と同じように親が居るわけ。

──でも。

エルフは他種族と違って、親兄弟でも邪魔になれば排除にかかる。

手段は抹殺一択だ。


…というのが恐れられている理由なのだが、近年はそこまで血の気の多いエルフは見掛けない。

多分殺し合って死んでるから。

寿命が長い分、生まれる命が少ないので

現存してるエルフは昔ほど荒くれてはいないはずだ。


──多分ね?


そもそも人口が多いところにノコノコやって来るエルフは、エルフ的にいうと変人が多い。

変人、つまり穏健派ということだ。


どちらかが死ぬまで争うのがエルフ流だけど、そうじゃないエルフもいる。


私はカイに自分はそういうエルフでは無い、と優しく説明した。


カイは軍服こそ着ていなかったが、主に入出国についてのアレコレを担う第三騎士団の副団長、という立場だという。

休日に緊急事態で呼び出されたとは、お気の毒な事だわ。


「とりあえず3ヶ月仮の入国証、その後問題がなければ5年有効の仮の国民証を出すので──その間にトラブルを起こした場合は速やかに円満出国。で、どうだろうか?」


「その【トラブル】についてちゃんと審議して貰えるなら」

エルフって嫌われがちだから冤罪とか絶対ありそうだもの。


「それは我が名にかけて誓おう」


カイがそう言ったところで今にも死にそうな様子の女性がガタガタと震えながら魔法紙をテーブルに持ってきた。

そんなに怖がらなくてもいいのに。


事務官であろう女性がそれはもう美しい文字で契約事項を書き込んでいく。

しっかり内容を確認して、お互いに魔力を魔法紙に流せば契約完了だ。


魔法紙はふんわりと淡い緑色に光りながら二枚になった。

一枚ずつ各自が保管するのが魔法契約の必須事項。

面白いもので、契約者サインの数だけ枚数が増えるのだ。

魔法紙は何をどうやっても破れないし燃えないので非常に高額なのだが

その分信頼のおける契約アイテム。


……もちろん抜け道はあるんだけどね。


私としては楽しく知らない国で過ごしたいだけなので、契約を破るつもりはない。

のんびり過ごす予定なの。


走るように事務官が去って、カイが一枚のカードを出した。


「住むところな、多分どこの宿屋もアウトだ。金は持ってるか?なら、親戚の家で売りに出してる物件がある」


郊外だし、近所付き合いもないくらい人のいない地域だけどな。

カイは笑い声をあげて続けた。


「今日は隣の部屋に泊まっていくといい。明日、カードに書いてある不動産屋に行けばわかるように話は通しておく」


ここを出て左に進んだ三軒目だ、と言い残しカイは大きな足音を立てて居なくなった。

ちょっと待ってみたが誰も案内に来ないので勝手に廊下に出てみた。

やっぱり誰もいないみたい。


なので、多分ここの事だろうと思われる隣の部屋を覗くと正解だったようなので遠慮なく入らせてもらった。

寝具しかない狭い部屋だが、シーツは清潔だったし野宿よりはマシだろう。

なんにせよ、門前払いされなかったのは僥倖だ。

さっさと寝て明日に備えよう。

私は着替えもせず、そのまま寝ることにした。


家が手に入るかもしれないなんて!


──幸先良いんじゃない?

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