新居
城下街の中心部にある噴水前を通り抜け、日中はやや閑散としている繁華街へと進む。
地図を確認すると、目的地は飲み屋や娼館が乱立する大きな通りからはかなり離れている。
閑静な貴族区に面しているあたりが王都西側の高級住宅街のようだ。
「一番奥……貴族区に隣接してるここの屋敷ね。お隣さんは……ええと、シューロイズ伯爵家のタウンハウスってメモが地図に貼ってある」
「後ほど貴族名鑑をお持ちしますわ、ジューン様」
私の新居は見るからに贅を凝らした素敵なお屋敷だった。
お隣のタウンハウスより立派なくらい。
デザイン重視で積まれたらしい石塀の向こうには、手入れされた庭園も見えている。
「聞いた話によるとね。ここ、フレッドさんがお母様のために用意したお屋敷なんですって」
「まあ、お母様に」
「でも、お母様が同居じゃないなら王都に来た意味がない、辺境に帰るってお怒りになったらしくて」
「建てたはいいけれど、宙に浮いてた物件なのですね」
「そうみたい。場所もいいから売るに売れなくて、持ってたみたいよ」
アマンダから手渡された金属片を、門の目立たない位置にある模様に当てる。
ぱちっ、と小さい音が鳴って、防犯魔法が解除された。
(自分で防犯魔法組んで掛けるのが最優先ね)
私はミシュティに先に見て回ってきて良いと許可を与え、屋敷の外周にしっかりと防犯魔法を二重に張り巡らせた。
(屋敷自体にも二重でいいか。資産を置いておくつもりはないし、押し入りは来ないと思うのよね)
既にエルフの所持物件だと明らかになっているわけだしね。
大きな二枚扉を魔法で開け、中に入ってみる。
「これはこれは……」
シンプルだが超高級な調度品が、品よく配置されている。
家具付きとは言っていたが、これほどとは。
キッチンも素晴らしいもので、ミシュティが瞳を爛々とさせて検分している。
「三段オーブン、強火力……コンロは五つ。素敵、素敵……」
私の位置からはミシュティの後ろ姿しか見えないが、尻尾がまっすぐ上に立ち上がっているので『超ゴキゲン』そうだ。
私は笑いをこらえながら、そのまま一人で屋敷を見て回った。
(部屋数は諸々含めて十四。一般的な貴族のタウンハウスは二十五部屋くらいだから、少なめだけど)
どの部屋も大きな窓があり、かなりゆったりした間取りだ。
「うーん、この広さだと使用人は最低でも五名よね。まあ、うちはミシュティがいるから雇う気ないけれど……」
本拠地にするわけでもないしね。
多分ミシュティだけで充分だと思うのよ。
新たに揃えるものはないようだし、維持だけだもの。
(でも、一応本人に聞いておこう……)
合流したミシュティに、早速尋ねると。
「もちろん私だけで充分でございます!」
ミシュティは青い瞳を煌めかせ、ふんわりした真っ白な手で自分の胸をぽんぽんと叩いた。
「メイド部屋だけ、家具がないわね」
玄関脇の小部屋だけは空っぽだ。
(来客の予定はない。この部屋はとりあえずの物置でいいんじゃないかしらね)
「ミシュティ、この部屋は物置きにしましょう。あなたのお部屋は好きなの選んでいいわよ」
「はい、ジューン様」
ミシュティは嬉しそうに玄関から近い部屋を見て回り、結局広いは広いけれどメイド部屋のすぐ横の部屋を選んだ。
「そんな玄関に近い場所でいいの?」
「はい! むしろ玄関に近い場所でないと落ち着きません。メイドですから」
「そんなものなの? あ、自室の内装は好きに変えていいわよ」
奥の私の寝室と書斎は続き部屋で、ここにも横にメイド部屋がある。
(女主人のレディースメイドの待機室ね)
「これはこのまま待機室として使って」
「はい」
「ちょっと私とミシュティだけだと広く感じるけど、いいお屋敷だわ」
「調度品が見事ですし、キッチンも最新設備でした」
(高齢のヘレナさんの家という想定なら平屋なのも納得ね)
「庭に出てみましょう」
コの字型の屋敷は充分な敷地を取ってあり、貴族区に面した庭園は喧騒とは無縁そう。
「静かで良いですね」
「芝生とガゼボしかないわね」
「お好みの庭木を植えます。池を作ってもいいですし」
「池……」
「睡蓮なんて素敵だと思いますわ」
「そうね、庭はミシュティの好きにしていいわ。危険植物以外ならね」
マンドラゴラはダメ、絶対。




