放置
「え、うちのリヴァイアサン?」
「そう、リヴァイアサン」
「もちろん野生のを捕まえたのよ。ほら、小さいうちは海底火山のそばにいるから。え、卵? それも海底に転がってるわ」
古龍種だから数千年周期だけど、と付け加えてセレナはグラスを掲げた。
「それが三つもあるのよ」
「うっそー」
「本当なのよ……」
「多分、産んだのは同じ龍だと思う。リヴァイアサンさんは縄張り意識強いから」
「つまり三つ子……?」
「卵はいくつ生むのが普通なのか知らないけど、違う龍が同じ産卵場所を選ぶのはありえないと思う」
「なるほど……」
「ちなみに孵化するのは竜よりは遅いわよ」
ポチもそうだったわ。
私は頷いて二本目のボトルを注文した。
「まあそうよね、古龍種だもんねぇ……」
「詳しいことはわからないのよ、私も。卵を産むのは雌でしょ?」
「そうね、雌は気難しいから」
「そそ、雌には近づけないから生態はよくわかんないのよねー」
滅多に他者に懐かない龍種にも、変わり種はいるもので。
セレナのリヴァイアサンもそうだし、ポチもだ。
他の例をみても、懐くのは雄だけ。
(龍種の雌はどうやっても絶対懐かない……)
無闇矢鱈に攻撃してくるわけじゃないけれど、警戒心が半端ないのだ。
雄は遊び好きが多いから、幼龍時代に仲良くなっていれば傍に置くことは可能。
極々、稀に……ではあるが。
「気になってるのは海底火山の温度と、温泉の砂浜の温度差なのよね」
私の言葉に、セレナが首を傾げながら考え込んだ。
「リヴァイアサンの幼龍がいた海底火山は、私が泳げる温度だったから、そんなに熱々じゃなくても孵化しそうよね」
「あ、熱泉付近じゃないんだ」
「うん。四十度くらい。それ以上は素じゃ泳げないもの、私」
「なら温度は適温の可能性があると。島の沖に雌のリヴァイアサンがいるのは間違いないのよ」
「砂浜にねぇ〜。海底火山より安全だって思われたとか?」
「結構前から海側の温泉海域には来てたわ……」
「埋めとくしかないんじゃない? 五百年くらいしたら、勝手に孵化してどっか行くと思うわ」
「放置一択かぁ。触ったらママ龍怒りそうよね……」
五百年放置か。
まあ邪魔な場所にあるわけじゃないし、それで構わない気もしてきたわ。
「あ、この牡蠣おっきくてプリプリ〜」
「もう一皿頼みましょう」
「この牡蠣、どこのかしら。買って帰りたい」
「家でも食べるつもり?」
「うん。これ、パスタにしたら美味しそうじゃない? 」
私とセレナはカフェを出た後、ちょっと沖の島まで行って牡蠣を買い込んだ。
夕飯はパスタにしてもらう、絶対。
「ミシュティ、ミシュティ。今日は牡蠣のパスタにして!」
「まぁ、こんなに」
「龍島にも差し入れしてあげて」
ミシュティは牡蠣が詰まったマジックバッグを受け取り、笑顔になった。
「かしこまりました。夕飯は牡蠣と香草のパスタにいたしましょう」
「よろしくね」
「あ、ジューン様」
「なあに」
「牡蠣、一個だけデストロイヤーさんにあげてもいいですか? 明日ちょうどフレスベルグ様のお宅にお届け物をするので」
「いいわよ。でもフレスベルグのウルトラソウルにもあげたほうがいいから、幾つか置いてきたらいいわ」
「そうします」
フレスベルグは大人だけど、おとなげないから絶対拗ねるからね。
おチビと本気で喧嘩してそうだし。
まだお腹がいっぱいだし、夕方までは間がある。
私はもう一度、青い三つの卵を見に行った。
(やっぱり意図的に埋めてあるわねぇ)
柵で囲って屋根を設置したほうがいいんだろうか。
海中なら落下物の心配はないけれど、陸地ではそうもいかないだろうし。
(なにしろ、ポチには生きたヒドラを捕まえて投げ落とした前科がある……)
頑丈と言われる龍卵でも、ヒドラレベルの落下物には負けるんじゃないかな……?
落とされたマカロンちゃんが無事でよかったわ、本当に。
念の為、空中に上がって沖を見渡したがママ龍の気配はない。
ポチ入りの卵も産み捨てられていたから、古龍は産んだら終わりっぽいのよね。
(生まれたてでも、普通の竜や龍よりつよいからなのかしら)
古龍は数が少なすぎて、わからないことの方が多いのが困ったところだわ。




