海龍
《祭壇もこれで四つめですね、このあとはどういうルートで?》
《デジュカ、ヴィランテ、最後はアルシア最北部の氷鏡の湖となってますね》
《発表されたルートと少々変わっているのは何故でしょう》
《勇者パーティのエルフ対策らしいですが、詳しい情報は秘匿されています》
久しぶりにテレビをつけると、勇者チャンネルで進捗について対談が行われている。
(人気アナウンサー、プロデューサー、どんぐり歌劇団の団長、旧貴族の勇者チャンネル局長……)
中々の顔ぶれである。
《エルフ──アライン氏ですね。偽聖女が工作したんでしょうか? とりあえず望遠レンズ以外からの撮影が可能になったらしいですよ》
《それは僥倖》
《そうそう。先日、虚無のアイヒェルの三日に及んだサイン会は大盛況でしたね》
《ええ。まだ年若い魔王ということで、若年層からの支持が厚いようです》
《ああ……五百歳くらいですものね》
《魔王組合も層が厚いですよね。ベテランから新人まで──》
私は爪の手入れを終え、夜食のタマゴサンドを口に放り込んだ。
なるほど、フレスベルグがアマネを預けて行ったのはサイン会だったのか。
魔王業も楽じゃないのよね。
「ベテランって何よ、魔王はまだ一回以上やった人いないんだけど」
年齢か?年齢なのか?
(確かにそういう意味では層が厚いのか……)
最長年齢は多分ネモ。
その次がレスターで、歳下のカルミラと私は同い年。
ちょっと離れて、セレナ。
それ以外のメンバーは若い。
「五百歳から二万歳まで! おもしろー」
テレビを見ていると、独り言が増えるのは何故なのかしら。
黙っていようと思っても喋っちゃうのよね。
《そろそろクーン郊外で、第六回魔王記念どんぐりコンテストが開かれますが》
《前売り券は完売してます》
《え、全期間ですか?》
《はい。十日分、すべてです》
《ああ、当日券もありますから──》
《前売り券はどんぐり一個付きですから。そのどんぐりと、運営側が持っているどんぐり帽子が合致した人に豪華プレゼントと》
《ははぁ、なるほど。どんぐりクジですね?》
《完売もなるほどです》
運営側保管の殻斗──つまり帽子にピッタリのどんぐりを持ってる人が当たり、と。
(どんぐり付き前売り券、しかも完売)
絶対ミシュティは買ってそう。
どんぐりコンテスト、一応出品はしてみたけど予選落ちしたらしく通過の連絡は無かった。
次回分は本気で探しておこう。
「ふー」
私はサイドテーブルに手を伸ばし、バルフィの報告書を読み始めた。
(龍島は順調、と。レースに向いてそうな子が三頭も居るのね……んん? リヴァイアサン?)
龍島には赤ちゃん龍しかいないはずだ。
この辺の海域にいるリヴァイアサンが、龍島に寄って行ったのかしら。
私は不思議に思いながらもページをめくった。
「ええ〜っ、卵ぉ?」
ポチ温泉の余剰湯が海に流れ落ちているポイントに、リヴァイアサンが来ていたのは知っている。
が、砂浜に卵が三つ埋められていたとのこと。
海龍育成設備は無いので、どうしましょうかと困惑気味に報告書は締め括られていた。
「リヴァイアサン、リヴァイアサン……セレナに聞いてみようかな」
マーメイドのセレナはリヴァイアサンを飼っているから、いい伝手があるかもしれない。
まさか海龍にまで卵を埋められるとは……。
(全く考えてもいなかったわ。しかも三つ)
セレナへの連絡は、現物を見てからで。
結局、寝そびれてしまった私は早朝に海辺へ足を向けた。
「あ、うん。三つあるわね」
温泉の湯が砂浜に落ちて、海に合流しているポイントに青い卵がまばらに埋まっている。
砂からほんの僅かだけ頭を覗かせているので、知らなかったら見落としてしまう状態だ。
(本来であれば、海底火山のそばとか水中に産卵するはずなんだけれど……?)
ここが周辺海域より暖かいのはわかる。
だが、海底火山ほどの熱はない。
私は上を見上げ、キラキラと陽光を反射しながら流れ落ちる温泉水を眺めた。
「温度は不適合な気がするけれど、水質重視? 古龍のダシでも出てるのかしらね……?」
なんだかそれしか考えられない。
龍稀石が出来る濃度で、ポチが沈んでいるわけだから……。
「温泉水に、多少龍気が溶け込んでる可能性はあるわね……」
(どこかに水質調査を頼むか……)




