祝儀
思い立ったが吉日。
翌日私は早速辺境に飛んで、メアリの家の扉を叩いた。
「お祝いの品かい?」
メアリは首を傾げて黙り込んだ。
「そうだねぇ、このあたりじゃ季節に合った魔核を持っていくことが多いよ」
「大きさは?」
これは大事な情報だ。
うっかり非常識なサイズを持っていくわけにはいかない。
「魔道具にセットして一ヶ月分くらいかねぇ」
「今なら火の魔核で失礼じゃないと?」
「そうだね。でも魔核を贈るのは割と古い風習だからね。最近は現金を贈ることもあるみたいだよ」
「現金。相場は?」
「平民同士なら、銀貨数枚だねぇ。関係性にもよるけどさ」
なるほど。
でも現金はちょっと抵抗があるなぁ。
(うん、魔核と何かが無難か……)
私はメアリにお礼を言い、焼き菓子の大箱を手渡して御暇した。
メアリの家には子供がいっぱいいるから、お菓子が一番。
魔核は腐るほど持っている。
それは間違いなくカイも予測しているはずだ。
そうなると小さいサイズだと気まずいし、かと言って大きすぎるのも良くない。
お返し文化が無いから尚更である。
私は付近をぶらぶら歩きながら、どうするのが無難か考えた。
カイは飲み友達ではあるが、距離が近い間柄ではない。
ちょっと平均より豪華、くらいが一番いい気もするけれど……火じゃなくて聖核にする?
(いや、聖核の市場価格は他属性の十倍以上……やり過ぎだわ)
「あ、そうだ」
砂漠の名産品、ハファイ族の絨毯とか?
ドアマットサイズなら、価格的にも丁度いい。
「でもなぁ、花嫁の趣味に合わなかったら迷惑よね」
新居を自分で飾っていきたい女性の方が圧倒的に多いのだから、地雷は踏みたくない。
酒ならカイは喜ぶだろうけど、花嫁が飲めるとは限らない。
相場よりやや大きめの火魔核と、蜂蜜酒なんかどうだろう。
ちょうど蜂蜜酒ならいい感じの物を持っている。
(とりあえずそうしよう。まだ日があるから、何か思いついたら差し替えればいいし)
そこまで思考がまとまったところで、私は足を止めた。
カイの配偶者を調べたほうが早いんじゃない?
数日カイを張っていれば絶対に恋人に会いに行くだろうし。
ちょろっと自白魔法をかけて、好みのものを聞き出すくらいはいいんじゃないかしらね?
(バレない自信はあるけど、バレたら怒られそうだからダメね……)
うん、やっぱり魔核と蜂蜜酒を第一候補でいいか。
私は常識のあるエルフだからね。
歩くのを再開したところで、コボルトを連れた農家のおばちゃんに声をかけられた。
「あれ、エルフさん。久しぶりだね」
「こんにちは。最近は王都にいることが多くて」
「そうなのかい? みんなで最近見ないって話していたところだよ」
「たまに戻ってはいるんですけどね」
飼い犬のフリをしているコボルトが、絶望した顔で私を見あげている。
尻尾は股に挟まれ、小刻みに震えている。
命乞いの顔である。
(四足だと、見れば見るほどゴールデンレトリバーね……)
ほんとは、二足歩行種族のくせにね。
「可愛いわね」
「そうでしょう! 最近迷い込んできたのよ。子供らが飼いたいって言うもんだから」
「そうなの? お家が出来て良かったわね」
コボルトがおずおずと尻尾を振った。
大丈夫、私は真実をバラしたりしないわ。
愛玩犬勢がコボルトに多いのは、昔からだからね。
「だけど結局散歩は私がやることになって。ほんと子供って口ばっかりなんだから!」
「ふふ、どこのお家でも一緒ですね」
「全部自分たちでお世話するって言っておいて、すっかり忘れちゃうんだから」
コボルトはおばちゃんが一歩動くと、ものすごい勢いで綱を引っ張った。
「ちょっとー、やめなさい! ごめんなさいね、またね」
離れたすぎて前足が空回りしているコボルトに、おばちゃんは引きずられて去っていった。
(グレディス領は愛玩勢のコボルトが多いわね。今の子で五人目だわ)
犬のフリしてるから、五匹目でいいんだろうか?
辺境は自然が多いからきっと楽しいのね。
それはそうと、人間の懐の大きさは感嘆するわ。
鑑定したら、ちゃんとコボルトって出るのに。
(コボルトに似てる犬だから、品種がコボルト犬だろうってことになっちゃってる……)
歴史とは、こんな風に改竄されていくのかもしれない。
私は豆粒のように小さくなったおばちゃんとコボルトを見送り、そっと手を振った。




