旧友①
ポチの新居チェックから数日後。
私は一人でデジュカ大陸に来ている。
古巣のチェックの為、である。
「宝物は全部移したのね」
古龍の巣は、ポチが不要と判断して捨て置いたゴミしか残っていない。
「最深部は見たこと無かったわね。今までゴミの山で見えてなかったし」
最奥まで歩を進めると、何やら石のようなものが転がっている。
「オリハルコン鉱石じゃないの」
持っていったオリハルコン鉱石と、捨てられたものの違いは一目瞭然だった。
こういう鉱石は精錬しないと金属にはならないけれど、所々純度の高い部分が露出して光っている。
捨てられた鉱石は、くすんで光っていない。
(基準は光ってるか否か……ポチらしい)
だが、この曇った鉱石──ポチ以外には垂涎の的となるものだ。
「長年、龍気を浴びて変質したオリハルコン鉱石……」
まさに、お宝である。
ジャムの蓋より遥かに資産価値がある。
ポチ以外には。
レスターに欲しいかどうか問う手紙を送ると、その場で返信が飛んできた。
(そりゃ、そういうの好きだから欲しいに決まってるわね)
私はくすんだオリハルコン鉱石を回収して、レスターの屋敷に転送した。
元々ポチのものであるので、謝礼は大好物のポテトフライにしてあげてと付け加えて。
──龍は一度捨てた巣に戻ることはない。
なんだか感慨深いわね。
親元、つまり私から離れて初めて一人暮らしを始めた巣ですもの。
(まあ、ポチは気にもしてないでしょうけど)
人知を超えた高位存在というものは、そういうものだ。
「さて、用は済んだし飲みに行くか!」
先日、薬草園で再会した古い友人リュメイゲと約束があるのだ。
リュメイゲは普段イヴォーク大陸にいるけれど、数日デジュカに滞在中とのことで、共通の知人も呼んで急遽飲み会が決まった。
(一応、武装していこうっと)
デジュカの拠点で準備していると、黄色いワンピースが目についたので着て行くことにする。
黄色は大事、絶対。
「かんぱーい」
「ヴィルヌ!」
「あは、それ人間の乾杯だよねー」
「お久しぶりー」
参加者は私、リュメイゲ、あとは女性エルフのシェイジア、ミオンと男性エルフのビョルン。
三人はデジュカ大陸に住んでいて、エルフらしいエルフである。
「んで? どうなの、人間社会は相変わらず飽きないの?」
シェイジアの質問に私はにっこり笑ってグラスを持ち上げた。
「飽きないわ。次から次へと色んなことが起きるから。忍耐は必要だけどね」
「忍耐」
「忍耐……」
エルフの辞書に忍耐という文字はない。
変わり者のエルフだけが持つ、異能と言ってもいい。
「黄色をつけてくるのはいいけどさぁ」
ミオンがシェイジアの頭を見て、呟いた。
釣られて見てみるとスカイブルーの巻き毛に、雑に黄色いリボンが結ばれている。
「それ、お菓子の箱のリボンじゃん」
「仕方ないでしょ、黄色いものがそれしかなかったんだから」
「私は来る途中で買ってきたわ」
ミオンの胸元には小さな黄色いブローチ。
他のメンバーもなにかしら黄色の小物を身に着けている。
(極めて友好的な飲み会。多分)
「そういえば、また魔王が出たよな」
「あー、そうみたいね」
エルフにかかれば、魔王も虫か何か出たくらいの扱いである。
魔界に住んでいないエルフからしたら、こんなものだろう。
「勇者パーティにエルフがいるのに少し驚いた」
ビョルンの発言に、各々が意見を述べ始める。
「メリットは何だろう?」
「暇つぶしかな」
「弱味を握られてるとか?」
「人間に? なら、殺せば終わりじゃないの」
「確かに」
「確かに」
私はグラスを置き、厳かに告げた。
「人間社会では──とりあえず、すぐに殺すのはダメなのよ」
「なんて面倒な」
「じゃあどうするの? やっぱり社会的抹殺──」
「そこも楽しんでこその、スローライフなのよ」
「スローライフ」
「スローライフ」
「そう、スローライフ」
シェイジアがなんとなく不安そうな顔をして、口を開いた。
「スローライフって、なにするの」
「そうねえ。人間のお悩み解決したり、おいしいもの食べたり?」
「悩みを解決? えーと、平和的な?」
「それ何のメリットが?」
「邪魔なものを抹殺ではなく?」
「まさにスローライフねえ」
(スローライフの定義は合ってるはずだけれど……)
もしかしたら、人間が言うスローライフと私のスローライフってちょっと違う?
いや、私は誰も殺してないからセーフだよね……?




