洞穴
「島にある山にしては、結構な高さがありますわ。急勾配ですし……」
「転移じゃなかったら、わざわざ来ないと思うわ。珍しいものも生えてないし」
「そうですね……あ、洞穴が見えてきましたわ」
ポチは今日も温泉に沈んでいたので、主不在のお宅訪問である。
一応、洞穴見に行くことは湯の底に向かって叫んでおいた。
身動きすらなかったので、聞いていたかどうかはわからないけれど。
「全く隠す気ないじゃないの」
古巣の方は入り口付近に隠蔽魔法が張られていたが、今回の巣には何もない。
「ま、丸見えですわね……あっ」
洞穴に足を踏み入れる寸前、ミシュティの声に振り返る。
「あら」
「ポチさん、本当に温泉大好きなのですね……」
洞穴の前に立って景色を眺めると、木々の隙間から麓にあるポチ温泉がよく見える。
素晴らしいロケーションだ。
ポチ的に。
「温泉好きすぎて、引っ越すことにしたと……いうのが確実そうね」
「はい。間違いなさそうです。隠蔽していないのは、島自体にジューン様が強固なものを施しているからだと……」
「でしょうねえ、安心しきっちゃってるのかしら。古龍なのに」
そういいながら、私たちは古龍の巣へと足を踏み入れた。
一瞬、視界が二重になり身体が揺れる。
(古龍が住むには山が小さいから、空間魔法で中を拡げたのか……)
「広いですね」
「前の巣と同じくらいの設計ねー」
こんな高難易度の魔法を、息をするように使うのが魔法生物たる所以よね。
本龍はいつも温泉の底に沈んでいるが。
「ああ、奥にポチさんの宝物が」
ミシュティは宝物には近付かないよう、手前で足を止めた。
いい判断だ。
龍の宝物に、迂闊に触れてはいけない。
これはこの世界の常識だ。
古龍にしては穏やかで呑気が過ぎるポチでさえ、例外にはならない。
──彼らは『宝物』に執着する。
奥の雑多な収集品の小山には、強烈な呪いがかかっているのだ。
「色々見えますね。鉱物が多いみたいですが……うふふ、ラミードの瓶の蓋がいっぱい」
「ギラギラしてるからでしょうねえ、随分いっぱいあるわね」
ラミードとは、ちょっとお高いジャムを売っている商会。
扱っている物は貴族の普段遣い、庶民が大切な記念日に買うような価格帯。
ポチが集めているのは、ジャムの瓶の蓋。
蓋はガラス製でカット面が多く、光を乱反射してギラギラしているのだ。
「オリハルコンの鉱石と一緒にジャムの蓋──あ、一応宝石類もありますねぇ」
ミシュティの声は、笑いを含んでいる。
「あのティアラとか、どこから拾ってきたのかしらね」
「蓋が一番大事そうな配置に見えます……」
そうね。
一番のお気に入りはジャムの蓋。
ポチらしいといえば、ポチらしい。
「あのジャムは、中身がおいしいのにねぇ」
「ふふふ、でもラミードの瓶は可愛いので、集めてる人もいますから」
とりあえず、散らかしてはいないようなので問題なさそうだ。
足元に幾つか鱗が落ちているが、定期的に掃除してやれば以前のようにゴミと宝物が一緒くたになることはないだろう。
ミシュティが鱗を集め終わったので、私たちはそのまま屋敷へと転移した。
「鱗、どうします?」
「使いたいなら持ってていいわ。ポチの鱗なら私はもう売るほど持ってるし」
ミシュティは天井のランプに鱗をかざし、嬉しそうにしまい込んだ。
「金色で、うっすら光に透けててとても綺麗ですね」
そう、ポチはとても美しい龍なのだ。
おとなしいし、いい子よ。
鱗は丈夫だし、魔法防御性能も高い。
加工さえ出来れば、使い勝手はいい素材ではある。
「さて、オヤツ食べましょう、オヤツ」
「すぐ御用意致しますわ! 朝にピザの生地を寝かせておいたので、焼いてまいります」
「チーズいっぱいでね」
オヤツはピザ。
なんていい日なんだろう。
「毎日こうだといいんだけれど……」
明日はアマンダと会う約束がある。
セシリアをどうするか──
(全部の希望を通すのは不可能。でも、どこにも不具合が出ない最善策を考えないといけない……)
まあ、アマンダとセシリア良い感じで問題回避したとしても。
知らない誰かが、皺寄せを受けることには変わりない。
そこをどう最小限に持っていくか、がアマンダの希望なのだ。




