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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
スローライフ所望のエルフ

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睡眠


 休養、か。


 エルフに限った話で言えば、二、三ヶ月であれば食事、休憩、睡眠なしでの行動は可能である。

 ほぼ全員時空魔法所持なので、飲まず食わずという事態に陥る事も滅多に無いけれど。


 性格も合理的で冷酷だし甘い期待などはしない種族だ。

 物理、魔法共に得意であることと身体のストレス耐性もどの種族より強いことは『エルフ』の恐怖伝説に絶対加算されているはず。

  

 つまり、エルフは助けも補給無しで完全単独行動が出来る。

 数ヶ月敵地に潜り込んだり、スパイ活動をしてもストレス負荷がゼロ──数ヶ月であれば眠らなくても脳のパフォーマンスが落ちないから、眠らない。

 

 寝ている間に襲われる心配もないというわけだ。


「でも、寝ないわけじゃないのよね」


 必須なわけじゃないけれど、眠ることを楽しむエルフも多い。

 リラックスタイムは誰にだって必要だものね。


 そんなエルフが、脳のキャッシュ削除という目的で『深い睡眠』という手段を取るときに使うのが、永眠草を使った魔術的構造のシロップである。

 

 エルフ社会に普通に出回っているものだけど、『永眠をあなたに』というキャッチコピーが瓶に貼られている。

 うっかり旅行中などに出すと『毒を所持してる』と誤解を受けてしまう。

 本当に、国vs単独エルフの戦争になったりするから扱いは慎重を要する。


 (キャッチコピーを変えればいいんじゃないかってのはずーっと言われてるけど)


 エルフは怠惰なので直すわけがない。

 自分に関係ないこと、利のないことをわざわざ改善したりはしないのだ。

 永遠の眠りをあなたに、の商品名はただの『永眠草シロップ』である。

 これからもキャッチコピーが変わることはないだろう。


 (バカみたいな名前ではあるけれど、これは本当に効くのよね……)


 私は屋敷全体の防犯魔法の強度を上げ、寝室にも個別で幾つか障壁を張った。

 本当にぐっすり意識が沈んでしまうので、普段のようにかすかな異変で起きるのは難しい。

 完璧に安全な状態でしか、シロップは使えないのだ。

 更にベッド周りにも防御層を重ね、納得できる安全度になってからシロップを飲み干した。



 永眠草シロップは普通の薬ではなく、魔術的構造の魔薬に分類される。

 飲むと、夢を見る。

 シロップを飲んだから見ている夢であるのが、夢の中の自分にはっきりとわかるのが面白いところ。


 夢のなかで、私の目の前を様々な者が横切っていく。

 風景は雨だったり、晴れだったり。

 氷山になったり砂漠になったり、空中だったりもする。

 誰かに話しかけても答えはない。

 この夢の世界、私は幽霊になったかのように居ない扱いになっている。


 (私の脳内世界なのになぁ……)


「コンタクト不可能なのは、脳の自衛なのかしら?」


 誰も私に視線を向けず、雑多に通り過ぎていく。

 自分の記憶であるはずなのに、知った顔と知らない顔がある。


 (無意識に捉えて観測してたのでしょうね。脅威なしと判断して、忘れちゃった人……)


 無意識に記憶してしまっている不要なものを洗い流す作業というのが一番近いのだろうか。


 中には、夢の中の人と対話をしたというエルフもいる。

 けれど、それは自分の脳が言わせた言葉であるというのが共通認識だ。


 (そう考えると、自分の脳内の覗き見って面白いわねぇ)


 無意識に捉えていたものの、なんと多いことか。


「こんな落書きのある壁には覚えがないし……」


 幼きポチが、今は亡きユニコーンのウニと共に目の前を横切っていく。


  時系列も目茶苦茶、登場するものも多い。

 やはり、私は疲れていたんでしょうね。

 前回永眠草シロップを使ったのは覚えてないくらい昔だから、数千年分の記憶のゴミの仕分けか撤去ね。


 ああ、そういえば昔。

 我が子を亡くしたお母さんエルフがシロップをたくさん飲んで、記憶喪失になった事件があったわね。

 エルフにだって情の深い人はいるのだ。

 人間と一緒。

 考え方が違う人がいるってだけだ。

 いい人もいれば、そうじゃない人もいる


 (傾向として、エルフは感情には価値を見出さない者が多いけどね)


 子を産んだばかりのお母さんエルフだけはそこそこ感情豊かになるけれど。

 それは多分子育てに必要だから、である。


 (起きたらスッキリしてるんだろうか……?)

 

 

 

  

 


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