大盛
「……甘いもののブッフェなのに、タマゴサンドがあるのは加点ね」
「パスタやサラダもありますから、甘い物苦手な人も誘いやすいですね」
甘党のミシュティの前には、小さなケーキを大盛りにした皿がある。
何故大盛りなのに品良く皿におさまっているのか、理解に苦しむわ。
これが一流の侍女の能力というものだろうか……?
私の一皿目はタマゴサンドと紅茶。
大盛りで持ってきたが、品良くはならなかった。
(ミシュティのタマゴサンドのほうが美味しいけれど、悪くないわ)
「このお店──セシルのところの野菜を使ってまして」
「ジョンから聞いただけだけれど、農家を継ぐんですってね」
ミシュティは、はにかみながら頷いた。
「そうなんです。老夫婦がやってらしたんですが、後継者がいなくて。それで知り合いだったセシルが受け継ぐことになったのです」
「確かに美味しいものねえ、絶えるのは勿体ない」
ミシュティの交際相手の黒兎君は、農業に転身か。
植物好きのミシュティとピッタリね。
「東門から馬車で三十分くらいの場所に、農場があるんです」
「意外と近いわね」
「はい、六代続いてた農家さんで。あのあたりが拓ける前から、そこに住んでたからですね」
そう言って、ミシュティは次なる戦利品を求めて立ち上がった。
周囲をなんとなく眺めていると、意外にも男性客も多い。
女性と来ている人、男性だけで来ている人。
男性は甘い物を食べない、という風潮はないので珍しい光景ではない。
それでもやっぱり、こういう場所は女性客が多いイメージがある。
(軽食を多く用意してるのは、男性客もターゲットにしているからかしら?)
「ジューン様。別料金になるようですが、お酒もあるそうです」
「良いわね」
私はスタッフに合図して、スパークリングワインを注文した。
もちろん、ボトルでだ。
ミシュティは少しためらった後、オレンジジュースで割って飲むことにしたようだ。
「それで、セシルは農場でコケットも飼うことにしたらしくて。私としては差別化を図るならば、やはりコカトリスを──」
「やめなさい」
「セシルにも拒否されました」
「大事故になるじゃない」
「はい。どちらにしても、魔……あっちの動植物は持ち込めないですし。よくいる魔物のコカトリスなら、いけるんじゃないかなって」
「コカトリスの脅威度は四、よ。ミシュティ」
人間社会だと、魔物の脅威度レベルは十段階評価。
一は一般人でもどうにか追い払えるもの。
二だと冒険者対応。
それ以降は危険過ぎて、実績を積んだ冒険者じゃないと厳しい。
五を超えたら軍隊が出る事態になる。
「四………かなり危険……ですか?」
ミシュティは魔界っ子なので、ピンと来ない様子。
「四はしっかり準備して、実力のあるパーティでどうにかってレベルね」
「まあ。それならご老人たちとセシルには、ちょっと難しいかもです……」
(難しいどころじゃなくて、即死じゃないかしら……)
「ちょっと……まあそういうことよ」
「あ、ジューン様。そういえばサラダコーナーに卵サラダがありましたよ」
「え、卵サラダ? 取ってくるー」
(魔界のことは伏せるというのが前提だから、固有植物での協力は出来ないし、コカトリス導入はミシュティなりに善意を示しただけ……?)
うん、ミシュティは善性の塊だ。
負けず嫌いで、策士ではあるが。
みんなあの可愛さに煙に巻かれているが、非常に有能なのだ。
「あ、卵サラダ無いじゃないの」
忙しそうなスタッフが、あっという間に新しい卵サラダを並べてくれた。
卵サラダにはオニオンパセリが入っている。
野菜だ。
野菜も摂れることだし、これを食べたらお菓子にしよう。
あれこれ欲張って、もう入らないとなった頃。
「甘いお菓子は制覇しました」
「ええ? ほんとに?」
「はい。夕飯は抜いて、夜はマカロンちゃんと走ろうと思います」
(カロリーより、体積よ、体積。小さいミシュティの胃に全種類のお菓子が──)
「ところで、先ほどの十段階評価の十はどのような魔物なんですか?」
「リッチキングとか古龍とか。まあ、天変地異みたいな奴らね」
「ラウバッハ様とポチさんが……」
「あれは別物よ、ミシュティ」
ちなみに十段階評価リストには、しれっとエルフも入っている。
エルフは魔物扱いされている。




