菓子
「…………」
「…………」
無言の時間がどれくらい流れただろうか。
王都の家にいる私の目の前には、アラインが澄ました顔で座っている。
(ストレスが溜まってるからといって、何故私の家に来るのか……)
いや、アラインはまだ勇者や王子たちを抹消してない。
──相当我慢していると評価していい気もする。
「特段失礼な訳ではないのだが……」
「なるほどねぇ、そもそもパーティ参加が不本意だったと」
アラインは私の言葉に首を振ったあと、頷いた。
「利はあった」
「あ、そうなの?」
再度の沈黙。
エルフあるあるだ。
「参加報酬が魔術研究塔からの退職。雇用条件が口約束ではなく、魔法契約だったものでチャンスだと思ってね」
「ええー、自分に不利な条件で契約してたの?」
渋い顔で頷いたアラインは、事情を説明し始めた。
「私は元々ローランに住んでいたんだ。アルシアとローランの戦争が終わった時に、幼き王女──現王妃と共にアルシアに来た」
「なんで?」
私が不思議に思うのは当然である。
エルフが、わざわざ、そんな面倒事を善意で引き受けるわけがない。
「……ローラン王朝の歴史はアルシアより古かった。既に亡国となったが」
「そうね、二千年くらい?」
「八代前は女王だった」
「……うん?」
アラインはしかめっ面のまま、ブラックコーヒーを口に運んだ。
「女王は私の子を産んだ」
「あ、そういう?」
「もちろん、王配の私は人間と言うことで死んだことになってる。エルフだったというのは代々の王にしか告げられていない」
「あるあるねえ……」
「幸い人間しか生まれなかったので、その後は王家にさほど関わってなかった」
つまり、アルシアの現王妃やその子は人間種族ではあるが、アラインの血筋でもあると。
「幼い姫が人質として嫁ぐのが、あまりにも不憫だと最後の王が頭を下げてきた」
「エルフだけど、ご先祖様なら助けてくれるかもって感じだったのかしら」
「エルフなのになぁ……」
アラインと私は何とも言えない微妙な顔になった。
「なので宝物庫の物を根こそぎ接収して、引き受けた」
「え、いいなぁ。良いものあった?」
「それなりに。……アルシア側は私に首輪をつけたかったようで、エルフを受け入れる条件が『姫とその子らが存命の間、アルシア王に仕える』だった」
(アルシア現王って、中々の策士よね。長い年月を拘束すれば、アラインの不興を買う可能性があるけれど……)
王妃、その子たちの存命中となるとだいたい二百年。
エルフにとっては長いとは感じない期間だ。
非常にいいところを突いてきている。
「まあ、気にするような期間でも無かったのだが。どうも王宮勤めは性に合わん」
「でしょうねぇ」
「魔王を倒せば自由の身、と言うことだ」
私たちは悪い顔で微笑んだ。
「うまくやりなさいよ?」
「ああ、華麗に踊ってやるさ」
アラインが渋々砂漠へ戻った後、私はミシュティが見つけてきた菓子ブッフェに行く。
ミシュティとは店の前で落ち合う予定だ。
(ミシュティは私より王都に詳しいのよねぇ……)
家を出て雪の消えた歩道を歩きながら空を見上げると、冬特有の紫に青が滲み始めている。
道端には雪晴草の可愛らしい芽が顔を出していて、長い冬も終盤といったところ。
(雑草扱いの草だけど、これを見ると春が来るって気分になるのよね)
雑草といっても、黄色の可憐な花は咲く。
「と言っても、まだ寒い!」
私はブツブツと寒さへの不満を漏らしながら、店へと向かった。
モコモコの白い外套、白い猫耳帽子、水色のマフラー、ベージュのブーツ。
既に到着していた愛らしい出で立ちのミシュティは、お店の立て看板を熱心に眺めていた。
「ジューン様! お寒かったでしょう。席は確保済みですわ。さあ入りましょう」
受付で外套や荷物を預け、店内へ。
クラシカルな雰囲気の室内はかなり広い。
中央に様々な菓子やフルーツが並んでいる。
「飲み物は注文制ですが、ブッフェ料金に含まれているそうです。明日まで半額なのは嬉しいですよね」
ミシュティはウッキウキで鼻をピクピクとさせた。
(なるほど、半額。だからこんなに込み合っているのか……)
でも、混んでいると次々に新しい菓子が補充されるから悪いことではないのかも。
私たちは勇ましく、菓子の山へと向かった。




