個室③
……アマンダとセシリアの実際の出会いは、誘拐。
セシリアの正気の沙汰とは思えない行動が、アマンダの利権に影響を及ぼしかねなかったから。
傘下の菓子店で迷惑行為、余計なことを口走るなどで。
「なるほど、そこで前世のオネエ言葉が出ちゃったと」
「はい。そこから、どういうわけか身の上話になっちゃって……」
セシリアの話が区切りのいいところに来たので、飲み物の追加と軽食を頼むことにした。
注文したものを待つ間、私は頭の中で聞いた話を簡単に整理していく。
(処分かお仕置きのつもりで誘拐、偶然にもセシリアの前世とアマンダの性的属性が一致──)
アマンダは社会的に生きにくい感覚をセシリアと共有したのだろう。
そして、セシリアも。
それが恋に変わっていったと。
運が良かったと言ってしまえば簡単だけれど、構造的に考えてみるとセシリアは問答無用で始末されていてもおかしくはない。
(立場、ではなくアマンダ個人の琴線に触れたから今があるということね)
「──という経緯で、今はアマンダと愛し合ってるんです」
「なるほどねぇ」
「それで、まあお説教もありで沢山話して」
「ええ」
私はテーブルに一口大の並べられたサンドイッチを手に取り、聞き役に徹した。
もちろん選んだサンドイッチはタマゴサンド。
「よくよく整理して振り返ると、ゲームとは違う展開もそれなりにあって」
セシリアもサンドイッチをつまみ始めた。
「例えば、どういう?」
「私が前世持ちだから都合がいいように進んだ結果、シナリオ改変されたんだと思って都合よく受け取ってたんですけど……」
店の最奥にある個室は静かで、他のお客さんの声すら届かない。
(壁の大きな絵画の向こうに覗き見用の小部屋がある……この部屋は完全に裏仕様ね)
小部屋、今は誰もいないけれどね。
「まず、悪役令嬢。王子の婚約者の公爵令嬢の側仕えに隠しキャラがいなかったです」
「今も?」
「いえ、キャラ自体は他国の貴族子息として入学してきてたし、私の逆ハールートにもちゃんと乗ってました」
「身分というか、背景が違うってこと?」
「はい。ゲームでは悪役令嬢がわがままを言ってスラム街から拾って側仕えにしてたんです。正体は他国の貴族子息なんですけどね」
「あなたからはゲームの世界に見えて、現実はそうじゃないからでしょうね」
セシリアが訝しげに首を傾げた。
「社会構造的に無理なのよ。公爵令嬢がスラム街に行くのがまず無理」
「でも──」
「公爵令嬢は一人になることがない。スラム街に行くということは、使用人の介入が必要になる──でも、そんな使用人がいると思う?」
「あ、確かに……」
「雇用主は当主でしょう? 使用人として夫人や子の側に置くのは、貴族子女の跡取りではない人なのよ」
「そうですね、行儀見習いで──」
「その人が令嬢の脱走を見逃したり、スラム街に連れて行くというのは──自分の親兄弟の進退にも関わってくる」
「…………」
「それに、スラム街から拾った子を側仕えにするわけがないのよ。側仕えやメイドは紹介状がないと無理。高位貴族なら尚更ね」
「言われてみると、物理的にも制度的にも無理ですね……」
セシリアは納得したのか静かに同意した。
「手っ取り早いのは家ごと夜逃げね」
「アマンダもそう言ってました……」
「でも、踏み切れないしがらみがあるから詰んでるんでしょう?」
話に熱中しすぎて、気がつけば夕方になっていた。
セシリアは寮の門限があるからと言い、慌てて帰って行った。
お会計は結構ですと言われたので、私もそのままひよこ島に転移した。
リビングに転移してきた私を見て、ミシュティがモップを取り落とした。
「ジューン様……? それは……そのお姿は──」
ミシュティは目を見開き、小刻みに震えて立ち竦んでいる。
(あ、金髪緑眼のままだったわ。驚かせてしまったかしら)
「キャー、まさに! 暴虐の女王ですわぁ~!!」
「えっ、そういう?」
確かに暴虐の女王と同じ色合いではある。
言われてみたら、顔も同じ変化な気がする。
結局、ミシュティがあまりにも喜ぶので、この日は暴虐の女王スタイルのまま過ごすことにした。
(ピンク髪について、ミシュティならいい案出してくれる可能性はあるけれど……口外無用の契約だから巻き込めない)
次回アマンダに会った時に、これからどうするのか話す必要がある。
でも、とりあえず話を聞くという約束は果たしたので良しとしよう。
「さぁ、今夜は飲むわよー」




