個室②
──つまり。
現在の状況はほぼ詰んでいる。
私はセシリアの話の途中ではあったが、早々と判断を下した。
「……それで、勇者のお披露目パーティーがあったでしょう?」
「あったわね」
セシリアは冷めきった紅茶で喉を潤し、ため息をついた。
「あれはイベントだったの。ゲームでは勇者お披露目じゃなかったから、ちょっと迷ってたんだけど」
「イベントねぇ……」
「あのイベントまでは、私もやる気満々だったんですよ……ちゃんと達成条件もクリアしたし」
「達成条件って?」
セシリアは学園のバッグから、予想外に大きな平たい箱を取り出した。
(あら、学生用の鞄がマジックバッグとは……流石貴族の学校といったところね)
カップを避けて、テーブルに置かれた白い革張りの平箱。
「ピンクサファイアのパリュールを、告白と共に受け取ったんです」
許可を得て箱を開けると、見事なセットが並んでいる。
大粒のピンクサファイアのネックレス、イヤリング。
ブローチ、ブレスレット。
ダイヤがふんだんに使われたティアラ。
「これはこれは。見事なものねぇ」
「はい。これで王太子ルート確定。あとは進めてあった他の攻略対象の条件を完成させれば、逆ハールートへの条件が整うところでした」
(整うところだった。過去形ということは、その時点で逆ハーを諦めたということか……)
確かにピンク髪の噂や目にした行動は──相当酷いものだった。
が、逆を言えば切り取った場面……それしかない。
彼女がゲーム通りに何かをした時しか、目立った粗は無かったと言うことになる。
もちろん私が貴族ではないことから、普段の噂話が耳に入って来なかったという可能性はあるけれど。
「その日家に帰って、部屋でファッションショーをしていて、鏡の中の自分を見たときに……ふと思ったんです」
「続けて」
「はい。逆ハー狙ってたけど、私の身体って一つしかないじゃないですか。王太子と結婚したあと、他の攻略対象はどうなるんだろう?って」
「まあ、そうよね」
「そこから私って王太子が好きなんじゃなくて、愛される自分が好きなだけなんじゃないかって。よく考えたら王太子も他の攻略対象も、なんというか」
「ええ」
「婚約者そっちのけでヒロインに夢中ってヤバくない? と……」
(なるほど、突然現実が見えてきてしまったと……)
「そう思い始めたら、王太子はガキ……失礼、まだ幼いしつまんなくなっちゃって」
(なんだっけ、この前フレスベルグが言ってたそういう現象……蛙化、だっけか。今度確認しなくちゃ)
「五十代の精神年齢だと、十五やそこらの子は幼く見えるのはわかるわ」
セシリアは疲れた表情で頷いた。
「次の日から、パリュール返そうとしたり距離置こうとしたり頑張ったんですけど。そしたら逆に王太子が……。婚約者がなんかしたんだな?って言い始める始末で」
「あー、冤罪方面に」
「否定しても強制力のせいなのか、どんどんそういう方向に話が進んじゃうし。気がついてみれば周囲からは嫌われてるし、詰んでるなーって」
セシリアの話を聞く限り、自身の退学案は騒ぎが大きくなりすぎて断念。
地方の貧乏男爵である、気の小さい父親にも相談しにくい。
セシリア自体は奔放に振る舞ってはいるが、正妻から疎んじられているわけではない。
妾である母親、父親と正妻、その嫡男との仲も良好。
仲良し家族ゆえに、相談すら出来ないようだ。
「正直、もう命の危険がある状況だと思うわ」
「ですよねぇ……」
「高位貴族がチマチマした嫌がらせをする理由がない。憂いを絶ってしまう方が楽だもの」
親元から離れ、後ろ盾と言えるのは貴族といってもただの子息。
高位貴族がその気になったら、セシリアなどあっという間に行方知れずとなって処分されてしまう。
証拠も何も残さず。
「今一年生でしょう。まだ様子見されているだけの時期だから、あなた生きてられてるのよ」
「はい……」
「ちょっかいをかけた令息たちの婚約者……その家の当主は命令するだけ。高位貴族にはそういうシステムが出来上がっているのだから」
「はい、そのあたりはアマンダからみっちり言われました……」
「貴族の子供は確かに特権階級の恩恵を受けているけれど。実際はなんの権利も権限もない、『家』の駒。財産でしかない」
「はい」
「そしてその駒たちにもヒエラルキーがあって、あなたは逆らえないと」
セシリアは力無く同意した。
「それで、ゲーム内でお助けアイテムが買える『ル・アンジェ』って菓子店にダメ元でまた行ってみたんです。出禁喰らってたんですけどね」
「ああ、あのお菓子屋さんね」
「しつこく通ってたら、ある日学校帰りに誘拐されまして」
「誘拐」
「はい。そこで初めてアマンダに会ったんです……」




