個室①
アマンダから指定されたカフェは、学園近くとあって若い女性がターゲットのようだ。
外観は白亜の小さなお城といったところ。
窓は大きく、調度品は白が基調になっている。
アクセントとして、ちょっとくすんだグリーンの葉とピンクの花が散りばめられている。
(貴族気分になれるカフェ、がコンセプトなのかしら)
ミシュティが言うには、カフェラテが美味しかったようだ。
いいブルグ乳使ってるようですと教えてくれた。
兎の彼氏と行ったんだろうか?
猫と兎が乙女カフェで……
(見たかった……!)
店内に入り、エメラルドと名乗ると奥の個室に案内される。
お店には早めに入ったのだけれど。
ピンク髪もとい、セシリア・フォクシー男爵令嬢は既に到着していた。
彼女は私を見て慌てて立ち上がり、深々と日本式のお辞儀をした。
(え、どうしよう。なんかすごくいい子に見えるんだけど……?)
貴族子息たちを色仕掛けで追いかけ回し、あらゆるルールをガン無視した挙句、下着が見える勢いで飛び跳ねていたとは到底思えないしおらしさだ。
「セシリアです」
「エメラルドよ。とりあえず注文が終わったら遮音しましょう」
私とセシリアは各々飲み物を頼んだ。
それが届いてから遮音魔法を展開させ、一息ついたところでセシリアを見ると、静かに座ったままだ。
(目上の相手が話しかけるまで、黙っている……前に見かけた時は全く意に介してなかったけど。今はルールを守っている、と)
桃色にツヤツヤと輝く巻き毛、瞳は角度によって金色にも濃桃色にも見える。
学園の制服はワンピースにボレロだが、以前見た時とは大違いで──丈はロングのまま、着崩されていない。
ヒロインだけあって、文句なしの美少女だ。
「──で、事情って? 聞くだけは聞くわ。解決出来るかどうかは、話が終わってから判断する」
セシリアは小さな顔を強張らせ、頷いた。
「よろしくお願い致します」
「どうぞ」
「はい、えっと私……前世の記憶があって。五十代の、なんというかアマンダみたいな──」
「オネエね」
セシリアはきょとんとした顔をして、少し表情を緩めた。
オネエという発音の単語はこの世界には無い。
私がそのワードを出したことで、日本の話が通じると思ったのだろう。
(空気は読めてる、洞察力もある……同一人物なのは間違いないけれど、真逆過ぎるわね)
「そう、オネエ……男だったんです。で、七歳のときに大好きだったゲームの世界に転生しているのに気が付いたの」
「たまに聞く話ね。乙女ゲームでしょう」
「はい。ずっと可愛い女の子になりたかったので、ものすごく嬉しかったんです」
「なるほど」
「みんな私の言うことを喜んで聞いてくれた。だってすごく可愛いから。だから、最難関の逆ハールートに挑戦したの」
「ああ、そういう方向だったのね……」
「面白いくらい、みんな私に夢中になったし……なんて言ったらいいんだろう、前世ではチヤホヤなんてされたことなくて……キレイでもなんでもなかったから」
「ふむふむ」
「十三歳位だったかな。避けてても必ずイベントに遭遇するから『物語の強制力』があると確信したの」
──ああ、強制力ね。
どんなに避けてても辻褄が合うように調整されていくという、アレだ。
「だから、逆ハーもいけると思って。自分が主人公なんだもの」
セシリアは取り繕うこともなく、淡々と話している。
彼女にとっては、ここは物語の世界でしかなかったのだろう。
何か、考えが変わるようなことが起こるまでは。
「今はそうじゃないから、ここにいるのよね。その考え方が変わったのは何故?」
私の問いにセシリアは俯き、消え入るような声でポツポツと話し始めた。
「なにもかも思い通りでいい気分だったし、天真爛漫で破天荒なキャラ通りにやれば問題ないと思ってたんだけど……」
(あの不躾なキャラは、物語のキャラを踏襲していたと?)
うーん、実は乙女ゲームなるものはやったことがない。
それを題材にした小説いっぱい読んでたけれど。
ゲームのキャラってそんなに非常識な設定なんだろうか。
小説で、面白おかしく書かれているだけじゃないと言うことよね。
(現実を見たら──逆ハーがある時点で、貴族社会では成立しないものねえ)




