割窓
「いいんじゃね?」
フレスベルグはあっけらかんとした様子で言った。
──私は今日、フレスベルグの家に龍人コミュニティについて意見を聞きに来ている。
リビングは惨憺たる有様だ。
「ずいぶん散らかってるじゃないの。ネコ美ちゃんはどうしたの」
「ネコ美? ……ああ、今は買い物に」
「いや、そうじゃなくて家事よ」
「…………手が回ってないのは確かだな」
フレスベルグはソファーに積まれた洗濯済の衣類をつまみ上げ、半笑いだ。
「アマネがなー、時空庫の出し入れに難航しててさぁ。最初に持ってた『宝物』だけは自由自在なんだけど、それ以外がな」
「時空庫は難しいものねえ」
「だからアマネの私物が仕舞えてないんだよ」
「ああ、これ全部あの子の」
「そそ。まあそのうち出来るようになるだろ」
「マジックバッグで練習させたらいいんじゃない?」
体感したほうが手っ取り早い気がするわ。
「で、本人はどこに行ったの」
「店は顔馴染みの近所だから、ネコ美について行った」
(仲良くお出かけか。好奇心旺盛な子と、神経質じゃないフレスベルグは意外と相性がいいのかもね)
フレスベルグは部屋を見回し、呟いた。
「引っ越したほうがいいかな? 今まで一人暮らしだったからさぁ、部屋が足りない。アマネの部屋は元々ネコ美の部屋だったんだよな」
「ネコ美ちゃんはどこに?」
「ホムンクルス製作部屋にスペース作ったから、ネコ美はそれでいいらしい」
「片付きさえすれば、住み分けは出来てると」
「うん」
天気は快晴。
フレスベルグの背後の窓から、冷気が吹き込んでくる。
窓ガラスが割れ、まさかの魔王ウォッチングが貼り付けられているが──雑すぎてあちこち破けている。
私の視線を追い、フレスベルグが笑い始めた。
「修理はもう頼んである。この窓、アマネが転移失敗して割れちゃってさぁ」
(子供の転移の練習、あるあるねぇ)
一気に離れたところには移動させない。
最初は板やガラス、布などの向こう側に転移させるのが一般的。
「ガラスが一番成功率が高いのは知ってるけれど、割れるというリスクがあるわね」
そこは家庭それぞれの方針になる。
アマネは頑丈な龍人なので、フレスベルグはあえてガラスを選んだのだろう。
「ああ、俺が一番やりやすかったのがガラスだから。何枚割ったかわかんないけどな」
「で、上手く行ったの?」
「コツは掴めたみたいだけどな」
私は窓の破れたタブロイド紙に近づき、読んでみた。
「やだ、襲撃の記事じゃないの」
(よりによってなんで襲撃記事を……)
「カルミラが買い込んでたの、もらってきた」
「…………」
「でさぁ」
フレスベルグは膝を打ち、龍人コミュニティについて話を戻した
「そのロペさんってどこに住んでるん? 先に話聞いておくほうがいいよな?」
「ひよこ島の隣の島に住んでる、今は」
「んじゃ、近々行ってみるか」
「先にひよこ島に来て。ミシュティか私が連れて行くから」
いい加減身体が冷えてきたので、用も済んだし帰ろう。
「じゃ、またね」
一旦、自室でティータイム。
冷えた身体にマシュマロの浮いたココアは最高。
「さて。次はピンク髪ちゃんね」
アマンダから来た手紙には、学園近くのカフェの個室に来いとあった。
多分、裏の顔で所持してるお店かな。
フレッド商会は店舗を持ってないから。
(アマンダと違って、ピンク髪は迂闊過ぎる可能性がある)
今までの騒ぎを考えると、用心はしておくべきだ。
名前も姿も変えて行くのが最適解。
アマンダにも、そう返信してある。
(エルフ、というのは隠すとちょっとやりにくくなるから別人のエルフってことで)
髪と目の色は、一番エルフに多いプラチナブロンドと新緑で。
顔立ちはちょっと弄るくらいかな。
(顔は変えたところで大差ないし、変えなくてもいいくらいだけれど)
「んー、名前どうしようかな」
アレコレ考えるのは面倒だ。
目が緑だからエメラルドでいいや。
私はマシュマロを食べながら、深呼吸をして足を伸ばした。
「あ、忘れてた」
昔、作るだけ作って使ってないマジックバッグが沢山あるんだった。
一つアマネにあげようと思っていたんだったわ。
私はミシュティを呼び、ちょうど良さそうな形状のマジックバックを一緒に選別してフレスベルグ宛に転送した。
水色のリュックタイプ。
口が大きいので、出し入れの練習には最適なものだ。
(ミシュティは本当に水色が好きねぇ……)




