愛情
「でもね!!」
カルミラは眉間にシワを寄せ、少しだけ声を荒げた。
「ネモがね、親離れしろって言ってきたの」
「……ああ」
(ネモの言いたいこともわかる……)
「ねえ、カルミラ。大多数の種族は親は子より先に亡くなるでしょう? だから子が親離れしていくのは正常なのよ」
だが。
「わ、わかってはいるのよ……」
不死と言ってもいい長命種族に、その理は通用しない。
親離れ子離れに関しては、人間ほど明確な線引きがないのだ。
(カルミラも前世の記憶持ち。違う世界でも長命種だったらしいから、いまいちピンと来ないんでしょうねぇ)
「まぁ、心配するカルミラの気持ちもわかるけどね」
私の言葉に、カルミラは力無く頷いた。
(ただ、フレスベルグは前世の記憶持ち……その魂は人間の理に近いから行き違いが起きてる、と)
カルミラは、早すぎる親離れに困惑しているのだろう。
ネモはフレスベルグの意を汲んで、おとな扱いをすることにしたようだけど。
「大丈夫、ちゃんと育ってるわ。あなたに命を助けられ守られたからこそ、フレスベルグは同じ事をアマネにしてあげようとしてる」
カルミラはハッとした顔で、私を見た。
私は静かに話を続けた。
「だから、あなたの子育てはもう成功してるのよ」
「成功……。そうね、そうかも」
彼女は目を伏せ、ソファーに身体を預けて物思いに耽り始めた。
私は邪魔をしないよう、背後のメイドにお暇を告げてひよこ島に戻った。
今日はミシュティもいないし、急ぐ用事もない。
私は屋敷には入らず、そのまま島内を散策することにした。
まだまだ寒い季節ではあるけれど、雪混じりの地面からはチラホラ緑が見え始めていて。
なんとなく、春の兆しを感じられる。
──温室。
もう完成しているが、植物を入れるのはもう少し先に予定している。
──ドラゴンたちの卵。
ポチ温泉の周囲にたくさんあった卵は、残り1個だけになっている。
きっとこれももうじき孵化するはず。
後ろを振り返ると、機嫌が良さそうなユーニウスとペルルがついてきていたので果物をあげた。
そのまま歩いてミシュティ家の近くにある果樹園を覗くと、マカロンちゃんがプルナを貪り食べていた。
(寒さがちょっと緩んだから、久しぶりに巣から出てみたのかしらね?)
そのまま海岸に足を向け、白い砂浜をのんびり歩く。
潮風はまだ冷たいけれど、天気がいいので気分は上々だ。
半周ほど進んだところでポチ温泉の余剰湯が海水に溶け込んでいるポイントに到着した。
崖の上から流れ落ちる温泉水は、砂浜に少しの湯溜まりを作り海に向かって流れていく。
「深くなってる……?」
浅瀬であったはずのポイントが、明らかに深くなっている。
「…………」
時々温かい海水目当てなのかリヴァイアサンが来ているのを見かけるから、その子が掘ったのかもしれない。
(毎日見てるわけじゃないから、住んでても知らないことが起きてるのよねぇ)
まあ、騒ぎを起こしてるわけでもないしリヴァイアサン一匹や二匹、遊びに来るのは構わない。
「ふう、なんだかスッキリしたわね」
私の独り言は、風に乗って冬の海へと消えていった。
夜はバルフィが近況報告にやって来た。
泥を持ち込むとミシュティが怒るので、玄関でブーツから綺麗な置き靴に履き替えてからの登場だ。
「龍の育成状態は問題ありません。卵もラスト一個となってます。まだ巣立つレベルではありませんが、先に孵った子たちはかなり大きくなってます」
「順調そうで良かったわ」
「業務とは関係ないのですが、スタッフのロペさんが……」
「龍人の」
「はい、そのロペさんです」
バルフィはやや言い淀んだ。
問題でも起きたのだろうか?
「どうしたの?」
「ジューン様に相談があるとのことです。プライベートなことで」
「なにかしら」
「以前、龍人が新たに生まれたと言うことで、年末の休暇を交代した件で。どうやら、その新たな同胞というのがその、アマネくんの事らしいんですよ」
「ああ、龍人だものね。でも龍人の誰かが産んだ子じゃないわよ」
「そこは問題にならないそうです。アマネくんを龍人のコミュニティに紹介したいと言う相談らしいですよ」
「うーん、それはフレスベルグに聞いてからね。保護者は彼だから。聞いておくから、ロペさんには待つように伝えておいて」
(アマネにとっては、後ろ盾は多ければ多いほど安全だけど……フレスベルグ次第かな)




