異世人の技能(スキル)って?①
それから数日後、フレスベルグから『抗議文』が届いた。
『俺もひよこ島に行きたい』
……レスターだけズルいってことね。
すごく、フレスベルグらしい。
何かを思い付いたら待たないのは、相変わらずだ。
(来れる人が増えたら面倒そうだから、呼んでなかったのに……)
フレスベルグは長距離の転移を難なくこなす。
だが──私もそうなのだけれど、行き先の座標または目印が分からなければ転移は危険を伴う。
『この辺』とあたりをつけて飛んだ先が岩の中だったり、水中だったりと……命を落としたケースは数多くある。
なので、行ったことが無い場所には迂闊に飛べないというのが常識だ。
「何もないのに……」
そんな私の呟きは北の山から吹き下ろされた風に、かき消された。
とりあえず。
私、ミシュティ、レスターが一緒に転移しないと、ここには来られないのだ。
バルフィは転移能力がないので除外。
──もともとこの島は私の個人保養地で、魔法で丸ごと結界と障壁を張っているから、索敵も不可能。
(来られて困るわけじゃないけど、どうしよっかなぁ……)
ちなみにティティからも、行きたいなーというおねだりが来ている。
「あっつ!」
ポチが沈んでいるほぼ熱湯の温泉水を瓶に詰めながら、私は諦めに似た気持ちで了承することにした。
(無視したら、おかしな方法で来ようとしそうだし……)
フレスベルグとティティ……あの若いコンビは可愛いけれど、トラブルメーカーでもある。
まあ、嫌いではない。
むしろお気に入りと言ってもいいかもね?
ついついイジってしまうけれど、深い関係を避けがちな私にとって気楽に付き合っていられる『友人』ではある。
フレスベルグはフレスベルグで、今期魔王として忙しいだろうに……なんで今来たがるのか、解せないけれど。
(大方レスターから聞いて、来たくなっちゃっただけでしょうねぇ……)
瓶をレスターの屋敷に送った後、私はフレスベルグとティティに了承の手紙を出して周囲に埋まっている龍卵を眺めた。
(百個あったのが半分近く無くなってる……ということは、五十頭近い赤ちゃん達は龍島か)
バルフィ一人で大丈夫なのだろうか?
ちょっと聞いてみたほうがいいかもしれない。
私はスカートについた枯れ草を払い、龍島に転移した。
島には……赤ちゃん龍があちこちに散らばっていた。
一応住居として小さな家はあるけれど、バルフィは不在。
あちこち探すと崖の途中に引っかかった赤ちゃん龍を、引っ張り上げていた。
(落ちても怪我一つしないけど……下は激しい潮流か。流されちゃうから仕方ないわね)
「大丈夫?」
私の声に、バルフィが振り向いた。
「ああ、ジューン様でしたか。もちろん大丈夫です」
赤ちゃん龍は何事もなかったように、よたよたと藪のなかへ入っていった。
「自由奔放ねぇ……ねえ、一人じゃ大変じゃない?一年間、何人か短期雇用で増やす?」
「ありがたいですね、時間差で続々と孵っているので」
どうしようかな?
龍は一年で巣立つのが常識なのだけれど……。
「そうなると最初と最後の卵の時間差を配慮して、一年六ヶ月がいいわね」
バルフィは少し間を空け、頷いた。
「現時点で死卵無し──巣立ちたがらない個体もいるでしょうから、その期間だと至れり尽くせりですね」
「人材の心当たりは──」
「私が在籍していた龍舎の閉鎖を機に……引退したベテラン厩務員がいます。老齢ですが、龍保育や調教に関してはプロです」
「来てくれそうかしらね……」
そんな人材が龍島に来てくれるかしら?
孤島もいいとこで、龍しかいないんだけど。
──御老体であれば転移陣を敷いて、通いの方が良さそうね。
この件は後日話し合うということになり、私は屋敷に戻った。
潮風に数時間さらされて、髪がペタッとなった気がするわ。
熱いお茶を飲み終わったら、湯殿に行かなきゃ。
「……王都はどうだった?」
ティーポットから手を離したミシュティに、私は問いかけた。
ミシュティは朝から私の指示で、王都の偵察に行っていたからね。
「はい、ジューン様。特に騒ぎは起きてませんでしたが、冒険者ギルドのあの異世人用の建物の横を通り過ぎた時に──」
異世人ですって?
ギルドの借り上げたお屋敷よね。
もう全員、そこに入居してるはずだ。
「お庭の一画で、局地的暴風雨が起きてました」
「あらま。強い技能の人がいるのかしらね」
「強い技能……ですか?確かに魔力の揺らぎは感じられませんでしたけど」
ミシュティは一度言葉を区切り、尻尾を揺らし、首を捻った。
「あの発生の仕方はとても魔法っぽかったです……異世人には、魔臓器が存在しないのに」
(異世人における魔法様技能。秘匿されていない研究分野ね)
「魔法ではないのは、立証されてるのよ?異世の技能についての研究が始まったのは、約三千年前……勇者ヨッシーオの晩年にスタートしたの、本人の協力を得てね」




