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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

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ホムンクルス談義


「まぁ」


 我が家のメイド、ケット・シーのミシュティは晴れ渡った夏の空のような蒼い瞳を見開いた。


「ネコ美様を改造……」


「暇になったらね。気になるなら、それまでホムンクルス製作の基礎でも勉強してみたらどう?」


 少なくとも、着手は二年後位になると思うし。

 頭のいいミシュティが基礎を学ぶ時間とすれば、充分だ。


 (確か正規のホムンクルス製作の教本があったはず……)


 最初はみんなこの『誰でも買えて読むことが出来る』正統派のホムンクルス製作教本から入る。

 身近に製作師がいても、まずは座学の基礎から……がセオリーだ。

 私は時空庫から、自分が使った教本を取り出しかけ──思いとどまった。


 (一万年以上前の教本はちょっと……さすがに当てには出来ないか)


 もちろん、今でも採用されている素材や製法はあるけれど、こういうクリエイティブな分野は進歩するものだから。

 当時と比べたら、桁違いの技術の向上で素晴らしい仕上がりなのだ。


 正規製法ではね?


(今の倫理観に反する非合法なホムンクルスもあるけど、昔のそういうホムンクルスは素晴らしい仕上がりなのよね……)


 何故なら、倫理観の薄い時代に作られたものは往々にして性能がいい。

 その背後で、生贄が惜しみなく投入されていたからだ。

 現在では、あり得ない。


 (人体実験とか、今じゃ大騒ぎになることも大昔は平気で行われていた──でもそれが医療や魔法の発展にも繋がっている)


「教本は最新版を取り寄せましょう」


 私の言葉に、ミシュティは耳を震わせ嬉しそうに頷いた。


「今度ついでに、注文しておくわね」


 読んでない本が五十冊以上あるのに、本を買うのがやめられない。

 いいのだ。

 いずれ読むのだ、必ず。

 長生きの特権ってやつよね。


 とりあえず読んでみたいのは『ポイニークーン王朝最後の女王』という歴史書なんだけど。


 (その女王本人が友達だから、聞いたほうが早い気がするのよねぇ……)


 そもそもポイニークーン王家は世襲制ではないから、それぞれに血縁関係はない。

 王家に伝わる占い盤で、時代の王が決まるだけだったのだが……。

 カルミラの治世になってから、その占い盤が壊れたので、次が選べなくなった──。


 で、女王業に飽き飽きしていた彼女がこれ幸いと王政の廃止を宣言したのだ。


 …………その占い盤をうっかり落として割ったのは私だなんて、とてもじゃないけど誰にも言えない。


「呪いに対する耐性を加えたら、ネコ美様の外見はどうなるのでしょうか?」


 ミシュティは不思議そうに首を傾げた。


「そうね、外見はフレスベルグが相当拘ってるから──なるべく見た目に影響しないように、という方向になるんじゃないかしら」


「奥が深そうですね」


「そうね」


 私たち二人の会話を黙って聞いていたバルフィが、そのまま寝落ちしている。

 連日のドラゴンベビーの相手で、疲れているのだろう。

 バルフィを横目で見ながら、ミシュティは囁くように言った。


「今日、龍島の海辺に柵を作ったんです。赤ちゃんたちが危険と知らずに海に突っ込んでいっちゃうので……」


「龍だから死にはしないでしょ」


「ふふ、でも流されて行方不明になっちゃいますもの」


「あ、そうね。龍島の周囲は潮流が激しいものね」


 だからこそ、ドラゴン用の島にしたんだったわ。

 外部から船は近寄れないし、島から出るのもちょっと難儀だからね。

 バルフィに薄手の毛布を掛けてやりながら、ミシュティは微笑んだ。


「流されちゃってもどこかで元気に生きていけるのが龍ですけど……バルフィは生真面目なので、一頭も行方不明にしたくないみたいで」


「なるほどね。無理はさせないように監督お願いね」


「はい、ジューン様」


 魔法で岩場を作って囲んじゃうのが良いんだろうか。

 流されるレベルの幼龍時代はせいぜい数ヶ月だろうし、その後は飛んで移動するから……。

 岩に囲まれてても、問題なさそうではある。


 (今度バルフィが万全な時に聞いてみるか……)


 私とミシュティは、静かにリビングを出て外の空気を吸いに行った。

 ユーニウスとペルルはピッタリとくっついて仲睦まじい雰囲気だ。


「──これは恋の予感ってやつ?」


「どうでしょうか……相性は悪くないと思います。ペルルはやっと大人になったばかりなので、受胎は百年くらい先になると思いますけれど」


「まぁ、魔馬だものね。ポンポン産まれるものじゃないわね」


「ふふ、そうですわね。ジューン様はユーニウスの仔が欲しいと思ってらっしゃるのですか?」


 私は二頭の魔馬を眺めて、ミシュティに答えた。


「どっちでも良いの。自然に任せましょう」


 ミシュティは頷き、それが一番ですと微笑んだ。


 冬のちょっと鈍色の空は、やや暗い雰囲気になるけれど──寒さをはらんだ清浄な空気感があって、夏とはまた違う良さがある。

 静かで規則正しい波の音に黙って耳を傾けると、気持ちが落ち着いてくる気がするわ。


 さて、明日はレスターと魔法陣の最終打ち合わせだわ。

 仮仕上げだけ、ちゃんとしておかなくちゃね。

 



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