おたんじょうかい
──カルミラ城のパーティ会場は、一番広い迎賓室だった。
内輪のちょっとしたパーティの規模だし、それで充分だと思う。
けども……。
風船や紙のお花で飾られた部屋は、なんというか『おたんじょうびかい』な雰囲気だ。
ケルベロスの巨大ぬいぐるみが『508』と書かれたプレートを持っている。
(そうか、フレスベルグは508歳なのか……)
魔界の一般的な成人は種族差はあるけれど、だいたい二百歳くらいだ。
前から薄々感じていたけれど、カルミラはフレスベルグをまだ庇護が必要な『子供』扱いしているようだ。
だからフレスベルグのお子ちゃま感が抜けないのか、そうだから保護者を止められないのか──ニワトリが先か卵が先か論になっちゃうわね。
(でも、カルミラは子離れしなくちゃダメね……ネモも)
「よう」
ワイングラスを掲げ、陽気に話し掛けてきたレスターとゼグは既に出来上がっているようだ。
巨人族であるゼグは、カルミラ城以外の場所にはあまり姿を現さない。
大抵は魔界──ポイニークーン諸島から少し離れた小島の地下に広がる、巨人族の街から出てこない。
人付き合いが悪いわけではない。
交通機関や生活空間、全ての物理的なサイズの差異のせいだ。
(魔界はせいぜい三メートルくらいまでの種族が生活しやすいように、整備されているから……十メートル前後になる巨人族には不便だし、危険なのよね)
なので、巨人族に用事がある場合は巨人の街に行く方が手っ取り早い。
かの街は『小さき者』への配慮もバッチリなのだ。
巨人の街は観光地としても、人気がある。
…………巨大なだけに、行方不明者も多いけどね。
数百年前に行方不明になった観光客がミイラになって発見されたとか、たまに魔界新聞に載ってたりする。
動かないミイラだと、さほどニュースにもならないけども──動いてると、そこそこ大騒ぎになる。
自然に死霊になったのか、人為的なものなのか……意思はあるのか、とかね。
巨人の街にオカルト好きが多く集まるのは、こういうとこだと思う。
……ゼグ用の巨大ワイングラスに、メイドたちが一生懸命ワインを投入している。
十本以上入れても半分にも満たない。
(樽の方が効率的なんじゃ……?)
まあ、私がホストなわけじゃないから口は出さないけども。
ケーキが運び込まれ、フレスベルグが挨拶をしてパーティは終始和やかな雰囲気だ。
カルミラは、満足そうに『フレちゃん』を見ている。
「おお!?激レアのホムンクルスセットじゃん!」
フレスベルグはプレゼントを開封して喜んでいる。
「団栗堂のオイルじゃん……抽選じゃないと買えないヤツじゃんか!こっちは絶対起きるまで止まらない魔道具アラーム……?ありがたいヤツだぁ!」
「いいなァ!私も朝起きれないんだよねェ」
ティティが羨ましそうに呟く。
そんな彼女が持ってきたプレゼントは、ホムンクルス製作には欠かせない「妖精の涙」だ。
これは文字通り、涙が固体化したものなのだけれど──感情が高ぶった涙じゃないと、綺麗に固体化しないのだ。
妖精族の最高峰、エインセル族の涙ならば素晴らしい贈り物になる。
(良い、とされている感激や悲嘆の涙じゃないけど……)
吠える財布事件の時に、ティティが笑いすぎて大量の妖精の涙を溢したのだけれど。
私が集めて保管したもの以外にも、結構な量が採れたらしくティティは惜しげもなくプレゼントにしたようだ。
(売ればすごい価格がつくだろうに……妖精ってほんと損得勘定がなくて、可愛い種族だわ)
ちなみに気分屋なのは、脳も魔力製だからよ。
その日によって脳の出来が違うのも妖精の特徴だ。
高度な種族ほど……なんというか、型がある程度決まっているから記憶が曖昧になったり忘れたりはしないけれど。
ゴブリンなんかはその辺すごく適当で、魔力製の脳は不安定だけど……毎日楽しそうにしてる。
それはそれで、能天気で朗らかなゴブリンらしくて、愛らしいけどね。
「タネマシンガンを撃てるマンドラゴラ?めっちゃ胸熱じゃん! おお!?これは──」
フレスベルグが高々と掲げたのは、実に禍々しい黒雲を纏った大剣だった。
(待って待って、めっちゃ呪われてるじゃないの)
そっと周囲を見渡したが、気分の悪い人は居なさそうだ。
強い人ばかりで良かったわね。
呪い(のろい)は呪い(まじない)とも言うので、使う者に悪影響がないなら解呪しない方がいい場合もあるのだ。
あの大剣もそういう理由で、呪われたままなのだろう。
(まあ……驚異の殿堂ロシナンテの安売り目玉商品の飾り剣より、ずっと良いんじゃないかしらね?)




