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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

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孵化したっ☆


 1・蛇紋岩帯(マリアナ海溝)

 種類・変成岩(岩石)

 状態・固体

 特徴・高圧下で変質した鉱物(オリビンなど?)が蛇紋石化したもので、結晶構造が歪んでいる。


 ※レスターの狙いは「魔力を乱さない安定した結晶構造」=魔法的にノイズの少ないもの?


 2・ブラックスモーカーの硫化鉱柱

 種類・金属硫化物の堆積鉱(例:黄鉄鉱・閃亜鉛鉱など)

 状態・基本は固体。噴出時は高温だが、冷えると柱状に固化。

 注意点・採取時は周囲温度が数百度に達するため、召喚の際に「冷却か熱対策」が必要。


※レスターの狙いは「金属含有量が高く導電性に優れる」=魔導回路の素材。


 3・ コバルトリッチクラスト(南鳥島沖)

 種類・金属酸化物の層状鉱床

 状態・固体(岩盤の表面を覆う鉱層?)

 特徴・マンガン酸化物などが主成分で、コバルト・ニッケル・白金などを含む。


※レスターの狙いは「魔道具の共鳴核」=安定的に魔力を蓄え・共鳴させる層構造か。


 私はレスターとの会話中にざっくりとったメモをまとめて、どのように魔法陣に編み込むか……ゆっくり考えている。


 (必要なのは地球の資源がある座標と時間軸と……)


 昭和〜平成くらいでいいかしらね。

 地点も数十km余裕を持たせても大丈夫。

 深海だから、人身事故は絶対起きないはず。

 

 あんまりピンポイントにすると、成果ゼロになりかねない。


 無機物だし、このくらいの時代のこの辺にあるものくらいでいいと思うわ。


 私は新しい紙に、条件をつらつらと書き出してみた。


 ・召喚対象

 無機・固体・比重二以上・自然生成物

 

 ・座標

 太平洋プレート域(北緯10〜30度、東経140〜160度)くらい」

 

 ・時間軸昭和期以降(公転位相誤差±100年)


 ※除外

 有機成分・生体反応・酸素結合体


 (うーん、有機成分…… ? この文言で指定したら、主語が大きすぎて失敗しそうね)


 生命ではない有機物が対象に含まれてたら、厄介だ。

 

 有機物は必ずしも生命由来ではなく、たとえばメタンハイドレート・炭化水素・石油残滓なども『有機成分を含む無機混合物』に分類されるはずだ。

 なので『有機化合物を完全除外』にすると、ブラックスモーカー近傍で炭素由来物質が混ざるだろうから──召喚成功率が下がる気がする。


 「うーん……地質学も海洋学も、さほど詳しくないから、どんぶり勘定になっちゃうわね」


 ま、希望のものを召喚できたらラッキーくらいで良いんじゃないかしらね?

 レスターもそこはわかってるはずだ。

 

 私は凝った背筋をどうにかすべく立ち上がり、島内を散歩して気分転換をすることにした。


 ……レスターほど精緻な魔道具を作れる職人は、現在は存在しない。

 職人である彼が、色んな可能性を秘めた素材を求めるのは、当然の心理か。

 

 おそらく……推測だけど。

 ロロのための魔道具を作るのに、新たな突破口が欲しいんでしょうね。


 (あの人の前世って深海の地質とかそういうの研究してたのかしらねぇ……まさかの深海魚だったらウケるけど)


 深海魚だったから詳しいとかだったら、面白いわね?

 私は砂を踏みしめながら、くすくすと笑い声をあげた。


「あっ」


 ポチ温泉の周囲に埋まっていた卵が減っている。


 (赤ん坊ドラゴン、生まれたのかしら)


 近くにあるバルフィ用の小屋は無人。

 ミシュティの農園の物置を見に行くと、軒下に網に入った龍の卵の殻がぶら下がっていた。

 乾燥させているのだろうか?

 よく見ると、卵殻の網の奥に小さな台がある。


「卵殻から卵膜を剥がして、伸ばしたまま陰干し……」


 ミシュティは一体何をしているのだろうか?

 

 (確かに状態のいい龍卵膜は、あんな風に綺麗に伸ばされて……サイズを整えて売られてるものね)


 まあ、ミシュティがプライベートで何をしてても気にする必要はない。

 私が求める仕事を過不足なく、完璧にこなしているのだ──文句が出るはずもない。

 

 とりあえず、龍島に行ってみるか。

 卵の中身が気になるわ。

 私は遠目に小さく見える龍島を眺め、転移した。


「あらまあ」


 炎系の赤ん坊龍が……八頭、いや九頭。


 幼体というか乳飲み子だ。

 龍は母乳育児じゃないけども。


「ああ、ジューン様。今夜報告しようと思ってたんですよ。昨日の深夜から次々と孵り始めて──」


「一度に九個も……初日に産みつけていったものね」


「でしょうね。この子たちは、もう親龍が魔力を与え終わったので放置で大丈夫です」


 地熱で温められた卵は数ヶ月で孵るのだけれど、子龍が殻を割り始めると、どこからともなく親龍が現れる。

 這い出てきた我が子に『しばらく生きていけるだけの魔力』を与え、親龍はそのままあっさり去ってしまう。

 とくに親子の情などは、見たことがない。

 ドライなものである。


 (問題は、孵った時に親が来なかった龍の子)


 事故やトラブルで、親龍から魔力を貰えなかった幼龍は消滅するしかない。

 龍は強いので、まずそういうことはないが……ゼロではない。

 ポチが、そうだった。

 孵ったら親が来ると思って呑気に待ってたら、来なかったのよね……

 仕方ないので人工保育に切り替えたけど、魔力枯渇寸前で一年過ごすのは、中々スリリングだったから二度と経験したくないわね。


 今は育児放棄?された子用のフードがペットショップで売ってるから、いい時代よね。

 卵は百個あるから、数個は人工保育になるかもしれない。


「人工保育になりそうだったら、はやめに報告ちょうだい」


「かしこまりました」


 この幼い龍たちは、約一年で自立して飛び去っていくだろう。

 親からもらった魔力だけで賄えるので、龍島は本当に巣立ちまでの場所を提供するだけの島だ。


 ブーツに火を吐いてきた子龍を笑いながら避けて、私はひよこ島に戻った。


 

 

 

 





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