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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

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レスターの魔法陣転写装置



 遠くでキャンプの焚火が木々に紛れ、影絵のようにチラチラしている。

 冬の刺すような空気は透明で、息だけがふわふわと白く漂う。

 念の為、気取られないように収束点には音や視認性を遮蔽する障壁を張ってあるので──キャンプ側から見つかることはないはず。


「四十分な」


 レスターが夜の漆黒に溶け込むような、 低音で告げた。


 (多少余裕を持たせても、長居は危険だわ。周囲に人が多すぎるもの)


「そうね、冒険者には鼻が利く者も多いし」


「フレスベルグが魔法陣を転写したら、俺と魔道具ごと魔界に帰るから……後の観測はジューンでいいな?無論、俺は後から合流するけども」


 私は黒いフードをかぶったまま、頷いた。

 フードを取ったらエルフの髪が見えちゃうから、今日は取るわけには行かない。

 レスターはそそくさと起動の支度をして、フレスベルグが魔力を練り始めた。


 (おお、素晴らしい魔力錬成じゃないの。洗面器要らないんじゃないの?)


 集中力も問題ない。

 所要時間は、経験が物を言うのでそのうちどんどん短縮出来るだろう。

 今は時間が掛かる分、集中力が必要。


 フレスベルグの端正な横顔は彫像のように無表情だが、額には汗が滲んでいる。

 時間にして、二分も無かったけれど。

 本人にしたら相当長く感じたと思う。


 (失敗出来ないというプレッシャーと、慣れない魔力錬成だもの)


 おまけにエルフと鬼の監視付きだ。


 魔道具にフレスベルグの魔力が流れると、地面に稲妻のようなスパークがあちこちで起こり、やがて線がつながり『外側』から魔法陣が描かれていく。

 大きな魔力が圧縮して発動された時特有の高周波が起きており、私の頬を微かな空気の振動が撫でていく。


 魔力の気配──微かな静電気のような感覚、と言ったら伝わりやすいのだろうか。


 (もちろん感覚的なものだから、感じ方は人それぞれだけど)


 白く光っていた線が完成し、一瞬青く光る。

 そして周囲は音もなく真っ暗になり、レスターとフレスベルグはそのまま溶けてしまったように居なくなった。


 私は灯りはつけず、自分の目に暗視魔法をかけて収束点を歩き回った。

 高精度魔方陣が『完結』した証とも言える魔力の焦げた匂いが、微かに漂っている。

 ちょっと青臭いような……顔をしかめるような悪臭ではないけれど、いい香りではない。


「魔方陣は発動し、完結した……が、綻びが綴じられたか狭くなったのかは確認不能」


 自分で裂いた時空干渉であれば、確認も出来るのだけれど──


「魔法陣の干渉は……」


 魔法陣作成から起動、収束まで『一個人』が行った場合は確認出来るけど。

 それ以外の手が入った場合の時空干渉痕は、まず確認はできない。


 (万能のようで……いや万能に近いからこそ。魔法に不具合が起きると、本当にリカバリー出来ない)


 いつの間にか背後に立っていたレスターが、存在を示すように足元の枯葉をそっと踏んだので、私は振り返って試射は成功のようだと告げた。


「……上々だな。あとは異世人の流入が減ってくれば──本番は贄を指定した正式な魔法陣になる」


「わかったわ。そこ書き足して送ればいいのね?」


 前回の指定は、ヒトまたはそれに準ずる種族二名前後というものだった。

 今回は周囲に命の気配がない無機物を指定するつもりだ。


「無機物?なら深海の岩とか、普通じゃ手に入らないものがいい」


 レスターが小さな声で希望を出してきた。


「深海?まあ、地球の深海ならヒト族は居ないでしょうし……それで進めるわ」


「コバルトリッチクラストとかよ、ブラックスモーカーの硫化鉱柱か、プレート境界の蛇紋岩とか」


 私は手のひらをレスターに向け、その言葉を遮った。


「わかった、わかったわ。具体的な希望があるなら次の休みに聞くから──」


「まとめておく!」


 レスターは最後に収束点をしっかり観測し、帰っていった。

 私ももう一度周囲をチェックし、帰宅。


 すっかり冷え込んだ身体は温泉を欲している。

 私は屋敷に入る前に湯殿に向かって、ゆっくり入浴した。

 ドラゴン達の温泉は高温だし、透明でちょっと刺激臭がするのだけれど……。

 南側の私とミシュティが使ってる湯元は別なので、乳白色の柔らかい感じの温泉である。

 白魔杉の、香り高い自慢の湯船である。


 ミシュティが言うには、とろみのあるお湯だからしっかり掃除しないと大変らしい。

 聞いてみたら毎朝お湯を止め、浴槽から湯を全部出して掃除しているらしい。


 (この湯殿……長期で私がいない時は湯を抜かれ、乾かされてるらしいし……ミシュティのおかげで快適すぎる)


 まあ、一回ポチが壊したので湯殿もまだ新品同然なんだけどね。

 しかもお湯は抜きっぱなしもダメで、温泉を止めている期間は一日一回魔力水を張るんだとか。


 そうしないと、水分と魔力が不足して魔杉が割れちゃうんですって。


「ミシュティがいなかったら維持できない風呂だわ……」


 清潔でとろりとしたお湯は、冷え込んだ身体を優しく包み込んで温めてくれる。

 これで明日も休みなら最高なんだけど……

 残念ながら、お仕事よ。

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