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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

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八日目、休日

八日目、休日


 六日目後半、七日目は特に変わったことはなく……

 しいて言うなら、レイン氏が善良な人間なのは確認されたものの例の禁句が問題となっており、やはり監視は続くことが決まったくらいかな。

 

 ──ちなみにリリナさんから聞いたところによると、七日目の昼に面談した時に「こんなことになるなんて」と、相当しょぼくれていたとの事。


 乱暴な物言いや態度ではないという報告が上がっており、最初の不遜な態度はやはり『人見知りが発動して多弁になっていた』からのようだ。

 今は普通にコミュニケーションが取れているらしいし、多分この世界のエルフとは無関係だと近々判断してもらえるんじゃないかな?と、思うわ。


 問題はレスターの魔道具の試運転とフレスベルグの魔力錬成の精度だ。

 魔力を流すときに、魔道具(及び魔法陣)に向いた魔力に練り上げて流さないといけない。

 魔力錬成はそこまで絶対必要というものではないが……レスターの魔道具に、ある程度術者が合わせないと成功率が下がる。


 フレスベルグの仕上がりにかかっていると言っても過言ではない。


 家庭教師を頼んでいたベイリウスの講義に加え、三日間ミシュティのサポートで学ぶという話だったけれど。

 ベイリウスとミシュティが協議した結果、フレスベルグはどこかの山に籠ってミシュティからマンツーマンの指導を受けたみたい。

 ベイリウスはアウトドアが苦手で行かなかったとか。


「酷い目にあった!」


 フレスベルグは……ミシュティが近くにいないことを確認してから、ぼやいた。


 (ミシュティブートキャンプ……ちょっと気になるわね)


「酷い目って……手足もがれたとか?」


 私の問いに、フレスベルグは心底嫌な顔をした。


「似たようなもんだよ!死ぬかと思った」


「生命の危機ギリギリで訓練するのが効率良かったんじゃないの?三日しか無かったわけだし」


 フレスベルグとミシュティが戻ったのは八日目の朝。

 つまりエイプリルの二度目の休日で、夜にレスターの魔道具を動かす日だ。


 夜まで寝てくる、とフレスベルグは自宅に戻ったので、ミシュティにも夕方まで休むように指示を出した。

 夕方、本邸に戻ってきたミシュティはふわふわの毛とピンと張ったファビュラスなヒゲで戻ってきた。

 ゆっくりできたようで、何よりよ。


 フレスベルグとどういう特訓をしたのか、と尋ねると──やはり緊張感をもって特訓を施したらしい。

 ふうん、と納得した私。


 ミシュティは可愛らしく微笑み、控え目な様子で補足した。


「もちろん命を危険に晒したりなどしておりません。ジューン様の大事な御友人ですもの」


「うん……?」


「私、選択課目で拷問術を取ったことがありまして」


「拷問」


「ええ、警護・護衛科の時に」


「家政大学なのに、拷問」


 ミシュティは真面目な顔で答えた。


「侍女の嗜みです。知っていれば耐えようもありますし、応用もききますから」


 (家政大学がハード過ぎて毎回びっくりするけど……『主人』の種族によっては難易度が高くなるから、厳しいのかしら)


 フレスベルグは……ミシュティにいったいどんな特訓を受けたのだろうか。

 聞かない方が良さそうだ……。


「私の方は、夜にニーヴの引き渡しがありますので魔道具の検証には立ち会えないのですが」


 ミシュティがニーヴにブラシをかけ、出掛ける支度をしながら言った。


 「フレスベルグ様はもうきちんと魔力錬成出来ますから、大丈夫です。もし気が散っているなら、水面に水滴が落ちる音を聞かせれば落ち着くと思いますわ」


 水滴…………?

 拷問術の何かかしら?

 洗面器でも持っていけばいいかしらね。

 むしろ引き渡しを私がやって、検証はミシュティに──


 (あ、でも魔法陣作ったの私だからダメか……)


 思い通りには、なかなかいかないものだ。

 約束の時間は二十一時。

 各キャンプの護衛たちが、夜営に入る時間だ。


「──場所は?」


 低い声で、レスターが囁いた。

 隠蔽魔法で姿を隠した私、レスター、フレスベルグは点在するキャンプの中心地……今回の事態の収束点を徒歩で目指している。

 ざっくり計測した収束点だが、おそらく間違っていない。


 (まあ、今日は試射だから……)


 周囲にバレなければ問題なしよ。


「なあ、ジューン。面白い転移者居たか?」


 フレスベルグもヒソヒソ声で囁く。


「初級ケモナーとチーター希望者なら居たわ。あとは普通の人達ねー。年齢も性別も、特に偏ってはいない」


 フレスベルグは興味津々だったが、私も雇われの身なのでこれ以上話せることはないのだ。

 でも、マサオ……レイン氏は絶対フレスベルグと仲良くなれるタイプだ。

 帰還不能者になったらフレスベルグが雇えばいいんじゃないだろうか。


「雪が降ってないのは幸いだったな」


 レスターが収束点に魔道具を設置しながら、独り言のように呟いた。


 魔天堂が売り出している子供用魔法陣転写機は、持ち運びできる大きさだけど……

 レスターが私の魔法陣を転写するために作ったものは、小型車くらいはある。


「──これでも小さく作ったんだぞ」


「でしょうね。魔法陣の情報量考えたら、すごくコンパクトだと思うわ」


「さっき軽くテストしてみたが、フレスベルグの魔力も完璧に仕上がってるから問題ないだろ」


「よく三日で仕上がったわねぇ」


「…………」


「た、大変だったのね?」


「うん」


 よほど辛かったんだろうな、山籠り……




 

 

 

 

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>「フレスベルグ様はもうきちんと魔力錬成出来ますから、大丈夫です。もし気が散っているなら、水面に水滴が落ちる音を聞かせれば落ち着くと思いますわ」  これは……身動き出来ない様にして、頭に一定間隔で水…
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