三日目
子どもたちのキャンプからユウコさんのキャンプには、17時前に移動。
最終決定を聞くためだ。
暗い表情のユウコさんは……こっちで生きるには保護サポートが必須だと理解してくれたようで、契約書にサインをしてくれた。
一応、明日の朝礼時に帰還を希望してないことは再度伝えるけれど、本来のサポートシステムは帰還不能者として確定したあとなので……
「所定の期日が過ぎるまで、そのままお過ごしくださいね。何かあれば言ってください、ほぼ毎日来ますから」
ユウコさんは黙って頷き、椅子に座り込んだまま俯いている。
(私は契約通りの仕事をしなくちゃ。流されてはいけない)
「はい…………」
ユウコさんのか細い声に頷き、私は報告書提出のため対策本部へ戻った。
『子どもたち』からのざっくりとした聞き取りの報告書を提出し、ユウコさんの件に触れておく。
「帰りたくないって人、たまにいるのよね……予算的には帰ってくれないと厳しいんだけど」
リリナさんは眉間にしわを寄せ、困ったように呟いた。
「そうですね、予算は無限じゃないですし。ユウコさんの場合、健康状態は優良ですから……それ以外の理由なんでしょうけど」
転生と違って、転移だから全員自分が生まれ持ってる身体でやって来る 。
──あれこれ条件を指定して組まれた魔法陣で来た人は別として 。
全員、簡易鑑定してみてるけど治療が必要かも?という症状を持っているのは二人だけ。
しかも成人病だから、早急に致死に至るものでもない。
「人間関係とか生活苦かしらねぇ」
「どうでしょうね」
聞いてないのだから、わかるわけもない。
二日目はこんな感じで終了だった。
三日目の朝も、特に大きく変わったことはなかった。
午前中にキャンプを回って安否確認。
それから二つのキャンプを閉鎖して、帰還不能者となった人を王都に送ってから……新たに発見された異世人のところでキャンプを張ったくらいかな。
(思ったより来る人がハイペース。早く塞がないとえらいことだわ)
明日はエイプリルの法定休日だから、レスターに進捗を聞いてこなければ。
魔法陣由来のせいで応急処置すら難しいから、魔法陣転写の魔道具待ちなのよね。
(本来なら数年、数十年かけて作るものを数ヶ月っていうのがもう無茶振りなんだけども……)
『子どもたち』は休日後の出勤日で──ちょうど二十日経過になるみたいなので、午後からは移動についての説明が主な仕事だ。
果物とパンを口に押し込みながら、早々に子どもたちのキャンプに転移。
この子たちがキャンプから外れれば、かなり仕事は楽になるだろう。
移動と移住についての説明は日本語で書かれた冊子があるので、配布して読み上げればおしまいだ。
あとは雑談をして情報収集。
「王都の屋敷ではお米が出てるって言ってたわよ」
「やったぁ!」
「魔法!魔法使いたい!」
帰れないという現実からの逃避なのか、受け入れつつあるのか──子供たちの興味は魔法に向いている。
「残念だけど、皆さんは魔法は使えないの」
「ええーっ」
「なんで?」
疑問の声が上がる。
そりゃそうだろう、見た目同じに見える人間が魔法を使えてるからね。
(ま、私は人間に擬態中のエルフだけどね~)
「納得行かないのはわかります。私たちとあなたたちの外見は良く似ていますから」
だけど、決定的な差がある。
見た目は似ていても、完全に別種族だ。
「こっちの世界の人間には魔臓という臓器があって……基本、魔力はそこからしか得られないの」
詳しいことは王都で学ぶといい。
王都では──魔力がなくても生きていけるシステムが昔から出来上がってるから。
「明後日、朝に迎えに来るわね?転移するだけだけど……ああ、合わない場合もあるのよ」
全員、五メートルほどの転移で耐性チェック。
結果男子生徒二人がアウト。
二人とも身長が高い。
……背の高い人は、何故か転移に酔いやすいのよね。
「がっかりしなくても大丈夫。慣れるものだし……大人になれば酔いを訴える人はまず居ないから」
報告書には『二名は冒険者と一緒に馬車で』と記入してから──悔しがる男の子に、私はそう告げた。
少し業務から逸脱してしまうが、不安を和らげるリラックス付与(弱)を施したハンカチを全員に配り、対策本部へ戻る。
本部から離れていた数時間でキャンプが一ヵ所増えていた。
(人手が足りないわけだわ……次から次へと多すぎるもの)
残り時間は、新規のキャンプ二つを回って事態の説明とサポート契約の締結をした。
どちらも、異世界転移を喜んでる感じの男性だった。
判断の理由?
一発目の質問がこうだったから。
「けも耳美少女いますか?」
「チートありますか?」
居ないし、無いのよ。
異世界は世知辛いのよ……?
(でも、こういう人の方が順応性あるし、対応が楽なのよね……)




