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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

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対策初日


──冒険者ギルドの朝は早い。

 受付自体は、二十四時間あいているのだけれど。

 依頼を受注したり出発する冒険者たちは、朝の六時にはギルドに来て活動している。


 『エイプリル』が出勤する八時には、朝の混雑は解消されていた。

 受付を通り過ぎ、すぐ横の大部屋がエイプリルの所属する『異世人対策本部』だ。


「おはようございます」

「おはよう。早速だけど一番遠いキャンプに向かいましょう……説明は道中で。今日は私と一緒に行動ね」


 軽装のリリナさんが、笑顔でそう言った。


 馬車に乗り込み、一息ついたところで説明が始まる。


「最初のキャンプ地は数日後に閉鎖予定なの。そろそろ二十日過ぎるから、帰還不能者として保護移動よ」


 (そうね、二十日経っても戻れない人はもう無理だものね)


「……一番大変なのは十四歳の子供の集団。最初二十九人いて、帰れたのが十八名で……十一名が残留してて十七日目」


「二十九人?集団転移かしら」


「そう。同じ制服着てるから、学生みたい」


 十七日目……ほぼ帰還不能ね。

 人数からして、クラスごと転移か。

 帰れた子と帰れない子……心が痛むわね。


 紙をめくる音が響き、リリナさんが話し続ける。


「他は成人だから、子供たちよりはコミュニケーションは取りやすいと思う」


 今日は転移ポイントを確定するだけだから、馬車からは降りない。

 昼過ぎにギルドに戻り、遅めの昼食。

 私はパンと果物で、簡単に済ませた。

 ──満腹だと仕事に影響するから。


 午後は打ち合わせ。

 私の担当は子供たちのようだ。

 朝から全部のキャンプを回って、トラブルが無ければ昼から『子供たち』のキャンプに常駐。

 夜間は護衛として各キャンプに冒険者が配置される。


 渡された書類に目を通す。


 (男性六名、女性五名……十四歳なら中学生か)


 思春期の子供は引っ張られやすい。

 正確に言えば、二歳くらいから思春期を終えるまでの子供全般。

 乳飲み子や二歳前の子供が単独で転移という例はあんまり聞かない。

 大体は母親と一緒に転移してくる。


 一人で歩き出し、大人の目をかいくぐった幼児や自由に動き回れる年齢の子供が単独転移してきやすい。

 ──この人数での子供の集団転移は、すごく珍しいケースだ。

 こっちで召喚する場合、どれだけ魔力を投下しても一度に一人か二人が限界だから……本当に稀有と言っていいと思う。


 (集団転移は……あの魔法陣が原因じゃないのかも。だってあれは二人召喚の魔法陣だもの)


 ──でも。

 既に転移が頻発してる時点で異常事態だし、可能性はゼロではない。

 というか、偶発的に起きた転移だったとしてもこの世界に引っ張ってきた可能性が高い。

 やはり、これも魔王組合の責任と言わざるを得ないだろう。


 私は小さく息を吐いて、十一人の特徴や判明していることのリストに目を通した。

 通訳が少ないので、こっちから見た観察記録が主だ。


「全員健康で、食事はとれていると」


 (いけない、つい独り言の癖が。気をつけなくちゃ)


 今の私はエイプリルなのだ。

 うっかりジューンの思考で独り言を言うのは、おかしいものね。

 私は反省しつつ、報告リストを確認する作業に戻った。

 

 (最新の転移者は三日前、若い女性。こちらは女性冒険者チームがキャンプ常駐で対応)


 三日前なら帰還の可能性はある。

 帰る人は七〜十日くらいで帰る人が多い。

 それを過ぎたらどんどん確率が下がる。


 他のキャンプは十日を過ぎてる人ばかりだ。


 まあ、まず話を聞いてからじゃないと報告書を上げることもできないので、キャンプ回ってからの考察でいいかな。


 一区切りついたところで、目を上げると終業時間だった。

 書類を読むだけで数時間。


 (そこまで量は多くないけど、言葉が通じないせいで観察記録になってるし正確とは言えない。しかも読みにくいわ)


 正式な書類とは言い難いわね。


 まさか清書とか、作成し直せとか言わないよね?

 私は通訳であって、事務官ではない。

 日々の報告書は出すけれど、その後のことはノータッチだ。


 キャンプ関係の通訳は二名。

 経歴を見たところ、異世人の二世と異世人からニホン語を習った人だ。

 どちらも流暢に話せるわけではないようだ。


 ──そうそう通訳が確保出来ないのは当たり前ではある。

 転移してきた人はいるけれど、彼らには既に仕事……自分の生活というものがある。

 こっちの世界には冠婚葬祭の特別休暇や有休などの概念がないので、協力しろというのは無理がある。


 結果的に動ける通訳は、ほぼ居ないということだ。

 書類をあった場所に戻したタイミングで終業ベルが鳴り、初日は終了。

 『異世人対策本部』をぐるりと見渡すと、数人の職員がぐったりした顔で帰り支度をしている。

 仮設事務所だから、書架も収納スペースもなくあちこちに書類の山ができている。


 (せめて書類はきちんと保管しないと、後から上に報告を上げる際に面倒なんじゃないかしらね)


 余計なお世話だろうけど。


 私は挨拶をして、職場を辞した。

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