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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

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冒険者ギルド



 昼下がりの魔術師ギルド内は、それなりの人数がいるけれど──相変わらず静かだった。

 『エイプリル』である私は受付に直行して、指名依頼が届いているか尋ねてみた。


 落ち着いた声の受付の男性は、チラリと下を向き機器を操作しながら答えた。


「ええ、冒険者ギルドから依頼が来ております……ギルド間で発生する金銭とエイプリル様への報酬は別になります」


 個人ではなくギルドからの依頼なので、ちょっと普段とは手順が違うらしい。

 ギルド間で発生する金銭……仲介手数料的なものなんだろうか?

 

「──エイプリル様への報酬は冒険者ギルドから、直接支払われます。詳細は面談で決めたいそうなので、この用紙を持って冒険者ギルドへ行ってください」


 数枚の紙を手渡され、そのまま徒歩で冒険者ギルドへ。

 十分もかからない、近い場所にある。

 外に出て噴水広場を横切って行くのだけれど、冬なので水が抜かれている。

 頬を撫でる冷たい風と相まって、なんだか物悲しい雰囲気というか寂しい感じがする。


 (とは思ったけど、賑やかといえば賑やかね……)


 夏にレモネードのようなピーナドリンクを売っていた屋台で、ホットワインが売られている。

 温めただけのものと、しっかり火を入れてアルコールを飛ばしたものがあるという。

 とりあえず両方買っておこう。


 (今飲むのは……ノンアルコールの方ね)


 銅貨で支払いを終え、ベンチに腰掛けてホットワインを楽しむ。

 少し甘くて、シナモンがきいている。


「美味し……」

 

 ホットワインはスパイスたっぷりで、身体がぽかぽかになった。

 冬も嫌いじゃないけれど、寒いのはちょっと苦手。

 どうしても厚着になっちゃう。


 少しの道草を終えて、ようやく冒険者ギルドに到着。

 扉を開けると、むわっとした熱気と喧騒、食事の匂い。

 ──冒険者ギルドならではの雰囲気ね。

 魔術師ギルドで飲食してる人、いないもの。

 あっちは併設されたカフェしかない。


 冒険者ギルドには食事も取れる酒場が併設されているから、賑やかなのが当たり前。

 依頼完了日の飲食は割引だしね。

 駆け出しの冒険者にはありがたい制度だ。


 (ギルドなりの、福利厚生ってとこかしら。逆に魔術師ギルドのメンバーは、元々金銭的に恵まれてる人ばかりだから……なのかも?)


 魔術師になれるのは勉強しないといけないからね。

 才能があっても理論を学ばないと、実践投入は出来ないし──学べる環境にあるものだけが、スタートラインに立てる。

 学ぶための援助制度はあるけれど、見出されるのは運のいい一握り。


 (生活に追われて、それどころじゃない人もいっぱいいるから……)


 実際、長年漁師をしていて魔術に無関係な人生を送り──晩年に偶然、凄い魔力保持者だったのがわかった人もいるのだ。

 生育環境に教育と余裕があれば、素晴らしい魔術師になっていただろう。


 受付で持ってきた書類を出すと、隣にある大部屋に通された。

 異世人対策本部として使ってる部屋らしく、六名の職員が忙しそうにしている。


「ああ!通訳の」


 職員さんは嬉しそうに手を叩いた。

 隅に椅子が用意され、せかせかと早足でリリナさんがやってきた。


「エイプリル様!ああ、よかった……依頼を受諾してくださって、ありがとうございます」


「よろしくお願いします」


 私、『エイプリル』は優雅にお辞儀をしてから席に着いた。

 リリナさんは書類を一抱え持ってきており、矢継ぎ早に話し始めた。


「もう、明日から現場に行っていただきたくて──」


 かなり人手不足のようで、焦りが見える。

 リリナさんは書類を確認しつつ、言葉を続ける。

 広げた地図を指さしながら。


「停留中のキャンプが八箇所……回帰不能者十二名は当ギルドの借り上げた屋敷に一時的に保護しております。ここの①のキャンプに四名、②には十一名──」


 冒険者ギルドが、抱えている異世人は三十四人。

 うち、十二名はもう帰れなさそう。

 二十二名はまだ八箇所のキャンプに点在しており、回帰出来るかどうか、その場に残留していると。

 

(言葉の通じない人々が、九箇所に分散してると)


「借り上げた屋敷の方は、どうにか回ってますがキャンプの方が通訳が間に合ってなくて。すべて王都周辺ですけれど、数kmから十数km離れてますし」


「なるほど」


「転移ができるエイプリル様がいれば、かなり現場の効率化になりますので助かります」


「十数kmの転移なら問題無いです」


「ああ、良かった!早速で申し訳ないんですけど、報酬の提示をさせていただきますね」


 そう言ってリリナさんは一枚の魔法契約紙を机に置いた。


 朝の十時から夕方六時までの勤務。

 休憩は好きな時間に取っていい。

 三日勤務、一日休日のループで一ヶ月白金貨一枚。


 (約、百万円くらいだけど転移を多用するなら、安すぎる……)


「あまり出せなくてすみません。時間外で通訳案件が発生した場合、一回につき金貨一枚。代わりと言ってはなんですが──勤務時間に案件がない時間はすべて休憩で構わないので……」


 まあ儲けようとして関わるわけじゃないから、安価だけど受けるべきだ。


 (こっちの不始末が原因だからね。カルミラが王都ギルドには匿名で寄付するって言ってたけれど……)


 保護にかかる費用は国から援助があるとはいえ、相当ギルドが負担しているはず。

 ギルドが赤字にならないよう、寄付する義務があると思うわ。


 (今回の魔王イベント、きっと赤字だわ……)


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