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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

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一段落



 次はレスターが魔方陣転写機を作ればいいだけなのだが……。

 精密さが要求されるから、すぐには難しい。


 (私も魔道具作るのは好きだけど、レスターは桁違いの職人だから……お任せね)


 試行錯誤を繰り返すだろうから、原図を薄い魔法紙に百枚転写しておく。

 自分の構築した魔方陣なので、重ねて焼き付けるだけだ。

 魔道具を通す必要がないのであっという間に完了。


 レスターにそれを手渡した後、私はカルミラに報告に行った。


 召喚の未完成から起きた異世人の異常な発生率、原因の特定、その対応に追われてること──

 黙って聞いていたカルミラは、静かに耳を傾けていた。


「事情はわかったわ」


 落ち着いた様子で手紙を書き、カルミラはフレスベルグを呼び出した。

 十分ほどでネモとフレスベルグがやってきたので、また最初から説明。

 話し終わった後の沈黙をカルミラが破る。


「フレちゃん──いえ、フレスベルグ。今まで若いから、子供だからと見逃し続けてきたけれど……さすがにもう庇いきれないわ」


「……」


「そもそも未検証の他人の魔法陣を持ち出し、組合の許可も待たず召喚を行なった。さらにそれが完了してないことにも気が付かず、放置──」


 コツコツ、とテーブルをカルミラの指が叩く。


「今回はジューンとレスターがフォローしてくれるから良いけれど。次はないと思ってね」


 フレスベルグは俯いて黙っている。


「大人と同じように扱われたいのであれば、相応の態度でいなければならぬ」 


 ネモの低い声。


「あなたが『魔王』としてやったことは魔王組合の責任問題になるのよ?好き勝手した挙げ句……あなた以外の七人に責任取れっていうのは、あんまりでしょう?」


 カルミラは静かに話を続ける。


「今回の場合、フレちゃんと仲が良いから後始末しているわけじゃないのは……理解してちょうだい。魔王組合のお遊びのせいで『世界』に綻びを起こしちゃってるの」

 

 笑い事じゃ済まないのよ、とカルミラが吐息混じりに呟いた。


「申し訳ない。あれから少し勉強して、非常に軽はずみだったのは理解している」


 フレスベルグが頭を下げた。

 カルミラは驚いた顔で彼を眺めていたが、何も言わずに口を引き結んだ。

 ……私は自分が調べたことだけ、報告だ。


「勇者は日本人。実際視認してきた訳じゃないけれど、現在王都周辺に引っ張られて来てるのも日本人と思われる……」


「ニホン……勇者の国よね?」


「この短期間に日本人ばかりが集中するのはおかしい。よって、例の魔法陣が関与している可能性が高い」


 今回、フレスベルグは本気で反省しているようだ。

 ベイリウスのところで基礎から学び直しているから、ことの重大性が理解できたのかも。

 私としては、もう出来る事はない。


「私はもう帰るわね?」

「ええ、悪いわね本当に──」


 フレスベルグは──今から『両親』である、ネモとカルミラから説教を受けるであろう雰囲気である。

 部外者の私が見ていいシーンでもないので、さっさとお暇させてもらおう。


「良いのよ。次は無いってことでね」


 軽く手を振り、私はひよこ島に転移した。


 (──疲れたわ。ニーヴのダイエットが終わったらちょっと生活を見直そう)


 冬の海辺は風が冷たいが、悪くはない。

 少しだけ雪がチラついているがひよこ島に降り積もることはまずない。

 地熱があるからね。

 アンクレットのように足首に巻き付いているソフィーは、そこを定位置と決めたようだ。

 圧迫感も痛みもないし、好きにさせておきましょう。


 (冬だから靴下の上から巻き付いてるのが、なんだかお間抜けだけど……)


 足首をそっと触ると、しゅるりと手首に移動してきたソフィー。

 黒い瞳が冬の陽光を反射して、ピカリと光る。


「ソフィー……不思議とケルベロスたちは、あなたを怖がらないのよねぇ」


 ソフィーは元々冥府に棲息していたのかしら。

 属性は純闇だし、そうなのかも。

 考え事をしつつ、浜辺を散歩していると海が湯気を立て始めた。

 上を見上げると、崖から温泉水が落ちてきている。


 (小さい滝みたいねぇ、温泉水だけど)


 ほぼ熱湯の温泉は、五十メートルほど上から落ちてきている。

 そのせいで暖かいからなのか、崖に鳥の巣が三つほど営巣されている。

 ……あいにく巣の主が不在なので、種類はわからないけれど。

 ソフィーは私から離れ、温泉混じりの海に入っていった。


 (あったかいのが好き?なら?ソフィーがカップで遊ぶときは、お湯にしてあげようかな)


 暫く崖の植生をチェックしながら過ごしたが、ソフィーは戻りそうにもないので上にあるポチ温泉に転移。


「卵はまだかえってないのねぇ……」


 温泉に入っていた雷龍と目が合ったが、気まずそうに背を向けられた。

 エルフが怖いからなのか、入浴を見られたくないからなのか──


 (多分エルフ怖いかなぁ……)


 バルフィ休憩用の小屋はいつの間にか完成していたようだ。

 少し離れた場所にミシュティの農園の物置も建っている。

 この島にいるのは私とケット・シーの姉弟だけだから、鍵は掛かっていない。

 ──物置小屋は綺麗に整頓されていたけれど、明らかに農園には関係なさそうなものも置かれている。


「龍の髭の束……温泉から集めたのかしら?鱗もいっぱいある……」


 どうにかしたら肥料化出来るのかしら?


「…………ヒドラの目玉?」


 大きな鮮度保持瓶に、ヒドラの目玉が十一個。

 先日ミシュティがお肉狩りに行った時のヒドラだと思うけど……。


 (残り五個はどこに行ったんだろうか)



 

 

 

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