表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/187

フェンリルダイエット作戦①


 今日はユーニウスと遊んだ。

 と言っても、島を走り回っただけだ。

 でも、ユーニウスはとても機嫌がよくて楽しそうだったから問題ない。

 寒いから洗うのを控えめにしてたら、湿疹が出来ちゃったので、洗い場に暖房を設置してこまめに洗うことになった。

 馬体は目で見えてるから手入れが行き届いてすぐ乾くけれど、足元がね。

 足元、蹄が乾かないと馬には致命打になる。


 ユーニウスとペルルは魔馬だし、どちらも足元に魔雲と呼ばれる霞のような魔力で覆われているから蹄鉄は不要。

 魔雲の表面は、砂も水滴も弾いてしまう。

 触れてると、少し静電気っぽい圧があるのだ。

 この魔雲という障壁のおかげで異物は入り込まないし、基本的に手入れは必要無いのだけれど──

 バルフィが言うには、手入れはした方がいいらしい。

 彼は龍のみならず、馬も大好きで頻繁にユーニウスたちと遊んでいる。


「裏堀りはした方がいいです」

「ふうん?」


 裏堀りは蹄に入り込んだ小石や泥なんかを掻き出す作業だけれど、魔雲タイプの子にはそういう汚れは無い。


「生き物ですから、多少の汚れは発生します。魔雲の自浄作用で清潔は保たれてますが──ほら、ちょっとだけ掻いてやると気持ちがいいみたいです」


 バルフィは蹄をちょっとだけ削り、ブラシをかけ、オイルを塗布した。

 ユーニウスもペルルもおとなしく、ケアされている。


 (なるほどねぇ、必要がなくてもケアはスキンシップの一環か)


 ミシュティも有能だけど、バルフィも有能だ。

 ありがたいことである。


 ソフィーはポチ温泉が海に流れ込んでる海水温泉が好きなようで、近くに連れていくと海に飛び込んで遊んでいる。


 (ソフィーの転移のルールもわかってきた)


 遊ぶソフィーを眺めながら、情報を整理する。

 彼女の転移する範囲はソフィー自身が関知している距離に限られている。

 だいたい百メートルほどかな。

 日によって変わってるけれど、気分なのか天気や明るさ、他の要因が関係してるのかはまだ不確定。


 ただし、私の影にだけはどれだけ離れていても──しれっと転移してくる。

 家に置いて来たはずが、カルミラ城に出現したり王都に来ちゃったり。


 (私の影に潜ってるだけなら、周囲に影響はないのだけれど……)


 出てしまうと、ちょっと厄介だ。

 おそらく闇魔法の素養がない者が影響を受けてしまうっぽい。

 気分が悪くなったり、昏倒したりと影響レベルはまちまちだけど。


 (弱いものほど影響を受けやすい……)


 幸い、ソフィーはいい子なので数回言って聞かせてからは転移後に勝手に出てこないようになった。

 私は自分のことなので、ソフィーが来れば感知できるから問題ないしね。


「さて、王都に行ってくるわ」


 私はミシュティに第五王子殿下からの書簡を見せた。


「まあ……ニーヴが?」

「しばらく預かることになったわ」

「うふふ、可愛がられ過ぎたんでしょうか」


 ──そう、勇者パーティに同行する王子の相棒であるフェンリルニーヴである。

 彼には、ダイエットが必要だった。

 王子たちも努力はしていたようだが、可愛いので使用人たちから『ほんのちょっぴり』のおやつを貰っているらしく、一向にダイエットが捗らないのだ。


「ほんのちょっぴりって言っても五十人から貰ってたらすごい量よねぇ」


「ふふ、みんな自分くらいはあげてもいいかなって心理でしょうか」


 とりあえず全面的禁止にしないとダメよね。

 十分走ってへばるフェンリルなんてフェンリルじゃないもの。


 私は溜め息をついて、王都の家まで転移した。

 王子の屋敷までは徒歩。

 多分転移出来るのはバレているけれど、公にはなってないから出来ないふりは続行。

 利用されたり当てにされるのは、困るから。



「──面目ない」


 殿下は非常に気まずそうだ。

 辺境にいた頃もニーヴはぽっちゃりだったけれど、王都に来てからは本当におデブさんになってしまった。

 使用人の数も多いのと、王城に連れていった際に国王がアレコレ与えちゃってるせいらしい。

 おかげでニーヴは国王が大好きで、食事時は絶対に離れないらしい。

 犬、食いしん坊の犬である。


「殿下、とりあえず今回は私がダイエットさせますけれど」


 私は横目でニーヴを眺めながら言った。

 平均的フェンリルより相当大きい。

 骨格も大きいし、毛も多いから大きめフェンリルなのは事実。


「力をいれて触って、肋骨に全く触れないのは異常です!」

 

「全くもって面目ない……」


 そうでしょうとも。

 いや、太ってても可愛いんだけどさ。

 可愛いんだけど。


 「ニーヴをお返しするときは……魔道具で間食禁止にしたいと思いますが、良いでしょうか?」


「可能なのか?」


「可能です。少々高度な物になりますが、指定の器に入っているもの以外の飲食不可制限はかけられます」


 この人たち、それぐらいやらないと絶対的またおやつを与える。

 喜んで食べてる姿が可愛いのはよくわかる。

 だが、太らせ過ぎはダメだ。


「後ですね、運動不足解消できる場所を確保してあげてくださいね?」


 王子殿下は全面降伏である。

 ニーヴは気まずそうに飼い主の足の間に顔を突っ込んでいる。

 大きすぎて全く隠れていないけれど。


 嫌がるニーヴを引きずりながら、家まで戻って島に転移。


 少しの潮風と、ペパーミントの香り。

 ひよこ島の空気はとても気持ちがいい。


 ユーニウスとニーヴは知り合いなので、問題なし。

 ペルルもユーニウスの様子を見て、フェンリルへの警戒を解いた。

 ミシュティがニーヴを見て、微笑んでエプロンのポケットからおやつ(多分煮干し)を出しかけたが、強い意思でやめることに成功していた。


 (さすが有能メイド……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ