フレスベルグのルーツ④
───フレスベルグのホムンクルスは、中々性能が良い。
猫耳の少女型で、全身が透明なゼリー状の素材で出来ている。
膝丈のメイド服(外出時は常識的なロング丈)、フリルいっぱいのヘッドドレスを着けている。
服とヘッドドレスで隠れた部分に、動力や魔導回路が隠蔽魔法と共に仕込まれている。
名前はミク。
フレスベルグはボカロが好きだったのだろうか。
勿論髪型?はロングのツインテールである。
ゼリー状だけど。
邪魔だと思うんだけどね?
この『ミク』、聞いて驚いたんだけどフレスベルグが作ったものだ。
魔導回路だけはレスターのアドバイスを受け、完成させたらしいけれど……。
非常に出来の良いホムンクルスだ。
つまり、フレスベルグはアホの子だけどバカではない。
ミクボディのスライムゼリーの循環維持、骨格を隠す光学迷彩の仕込み──どれをとっても繊細で素晴らしい仕上がりだ。
(興味があると天才、無いとポンコツ……)
「フレスベルグ、鱗は間違いなく龍由来──しかもバカみたいに堅い岩古龍の遺伝子だったわ」
「ケルベロスよりは嬉しい」
私はホムンクルスが淹れてくれたココアを飲んで、一息ついた。
フレスベルグは一心不乱にマシュマロを炙っている。
「それでね、私……どうしてあなたがそんなにアホなのか、ずっと考えてたの」
「その言い方!ひどくね?」
「魔臓の未分化、魔脈の不完全さは前に治療したから改善しているけど……基礎知識もなく、戦略を練る発想すらない──」
「…………」
「今まで生き残ってこれたのは、その岩古龍のバカみたいな頑丈さと、龍由来の魔法発動システムのお陰だと思うわ」
「え、発動システム?」
「前に一回説明してるけど……」
私はホワイトボードに魔法の発動システムを書き出した。
・① 収束(Concentration)
魔力を体内で集束・圧縮し、魔法行使のための状態に整える(魔力の制御・準備段階)
・② 構築(Formation)
術式や転移座標など、魔法の設計図を魔力で編み込む(魔法の骨組みを作る)
・③ 始動(Initiation)
構築した術式に起動の命令を与え、魔力を流し始める(スイッチオン段階)
・④ 展開(Deployment)
構築した魔法を現実に広げ、世界へ作用させる(魔法効果を「外」に接続する)
・⑤ 発動(Activation)展開した魔法が実際に効果を発揮し、現象が起こる(結果が現れる・転移なら移動が完了する)
「貴方の場合、①~③が普通より速い。で、④と⑤が一緒に起きている。つまり、龍と同じように発動が速い」
「…………」
「文字化け49%と、その体質のおかげで生き残ってこれたの。要は脳筋?だけど、エルフとやり合う気ならそれだけじゃ生き残れない」
「あ、文字化けってさぁ、一体なんなん?」
「文字化けはね、おそらく星核要因だと思うの」
「あー、星核ね……よくわからんけど」
「魔力量の桁違いさはそこにあると思う」
フレスベルグは頬を掻いて、マシュマロを口に放り込んだ。
熱かったらしく、悶えているのはいつもの光景。
「知らなくても生きてこれたのは、必要がなかったから。貴方はすごく強い。でも、これから生き残ろうとするなら学ばないとダメ」
「そうか……」
「私が言いたかったのはそういうこと。納得出来た?」
フレスベルグは強い。
ただ、その能力を生かしきれてないのだ。
「性格的に納得出来ないと、やらないでしょう?だからわざわざここまで説明したのだけれど」
「つまり、俺は今まで持って生まれた能力しか生かせてないと」
私は頷いた。
「いい?自分の家にかけられた障壁、どんぐり花火の残渣の痕跡──調べ方と、調べる頭があれば『誰がやったか』わかるはず」
「……探知魔法……とかの複合だよな?」
「習ってるはずよ?」
「お、おう……」
フレスベルグは黙ってラボから出ていった。
授業は終わったので、屋敷の出入り制限は外してある。
その間、私はホムンクルスにハーブティーを淹れてもらい、のんびり楽しんだ。
バン!!
扉が壊れそうな勢いで開く。
フレスベルグの顔が赤くなっている。
「ジューン!お、おまえか!あのどんぐり──どんぐりッ!」
「うふ、あったりぃ~」
「おま、おまえさぁ!」
「ベイリウスが教えるの得意みたいだから、手紙でお願いしてあるわ。きちんと勉強しなさいよ」
怒るフレスベルグを放置して、私はひよこ島に戻った。
フレスベルグが必要無かったから、とすっ飛ばしてた過程は普通なら必須。
動く前に考えるのはとても大事。
まだ若く、未熟なフレスベルグではエルフには勝てない。
なぜなら、エルフという種族は戦闘時にほとんど迷いがなく、二手三手先を読んで動く。
魔力操作が他種族とは段違いに巧く、謀略にも長けている。
しかも義理人情は通じない。
(でも、知識さえ身につけば。あの頑丈さは対エルフとしては長所になる)
耐えて、魔力切れを狙えばいいのだから。
そのためには、相手の癖や傾向──そういったものを判断する知識と観察力が必要。
ちゃんと学んでくれると良いのだけれど。
……文字化け49%が多いのか少ないのか、私にはわからない。
私の細胞の数値は把握している。
エルフ31%
文字化け102%
普通、100%に収まるものなのだ。
私の数値は、おかしい。
(でも、そう生まれちゃったんだからどうしようもない)
自分の異常さを真剣に考えたら、やってられないもの。