表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/175

フレスベルグのルーツ③


 ホムンクルスがきれいに家具を撤去した空き部屋に、私は魔方陣を直接描ける机や器具を設置し、簡易的な実験室を作った。


 興味津々で器具を眺めるフレスベルグを座らせ、もう少し説明を加える。


「生物学的な親がいない魔族が、何人かいるのは知ってるでしょう?──エルフも含めて」


 フレスベルグは頷いた。


「私も貴方もそういう魔族ね?ではどこで発生したかよ」


 私はホワイトボードに要点を書き込みながら、解説した。

 知ってることもあると思うけれど、念のためのおさらいだ。


「少なくとも4万年前に、この星に墜落した星があるのは知ってるわね?」


「うん。海に落ちなかった部分は浮遊大陸デジュカになってるって習った」


「うん、そうね。星には核がある──魔核と言ってもいい。規模は桁違いだけど」


「あー、メア大陸の」


 フレスベルグが頷いた。


「そう。星核は二つに割れて、デジュカに三割。メア大陸に七割の比率で存在していた──当時はデジュカのは純白、メアのは漆黒の巨大な岩だったと伝えられてる」


 ──当然ながら、星核には莫大なエネルギーが秘められていた。

 デジュカからは三体のエルフを、

 メアからは推定二十体の種族を発生させている。


「デジュカの星核は、私が発生した時に崩れてロストしてる。メアの星核も現在かなり色褪せて風化してるから、フレスベルグで最後か、もう一体でロストすると思う」


「うん」


 珍しく真面目に聞いているフレスベルグ。

 それはそれで不安だ。

 ちゃんと聞いているんだろうか?


「魔族側の事情はフレスベルグが身をもって経験してるから、知ってるわね。星核の魔族は、発見次第駆除される」


 強すぎて脅威になるからね。

 これは相当昔から続いてる風習。


「そこをクリアして生き延びた魔族は──私が知ってる限りだと、レスターとカルミラ。そしてフレスベルグ」


「俺もそれしか知らんわ」


 フレスベルグがホワイトボードを眺めながら、ぽつりと呟いた。


「星核から発生した者はなにかおかしくて……必ず転生者でもある。私を含めてね。フレスベルグもよ」


「え、レスターも?」


「本人が言わないから聞いてないけど、レスターは日本組だと思うわよ?カルミラは違う世界からみたいだけど」


「地球……ってか、日本率高くね?」

「まあ……日本には八百万の神がいるから」

「神の数かよ」

「推測よ、推測」


 本当のことなど、知りようもない。

 システムをわかっていたら、自由自在に行き来出来てるはずだもの。

 永遠の謎なんじゃないかしらね?


「さあ、フレスベルグの細胞チェックよ」


 私は古龍由来の媒体を幾つか取り出し、慎重にそれぞれ調合し、数種類の魔方陣ペンのインクに混ぜ込んだ。

 そして、立体的多重魔方陣を立ち上げた。


「昔は羽根ペンだったのよ。今は魔方陣ペンがあるからすごく楽に編める」


「球形の魔方陣──立体的魔方陣なんて初めて見た……」


 フレスベルグが掠れた声で呟く。


「これが禁忌とされる、創命環陣よ」


「そうめいかんじん……」


「命そのものを、構成式と数値の羅列に還元する魔方陣よ。これは創命環陣その一で、解析陣なの」


「ソフィーもそれで解析すれば良いんじゃね」

「ダメ。単品で使った場合、解析後はロストする……抹消されるから死んじゃう」

「怖ッ」


「その四まで重ねて使うものなの、本来。重ねた完成形は真っ黒の球形で、すごく禍々しい」


「これを、四つも……」


「簡単に言うと解析、変換、融合、定着。これで命の冒涜をしてたのよ」


 フレスベルグが後退り、壁に背をつけた。


「ちなみにこれを維持する魔力は膨大で、私でも長くは維持できない」


 当時は『命そのもの』を別の魔法陣で魔力に変換して運用されていたと記録にある。

 フレスベルグの鱗と肉片を一つ、創命環陣にセット。

 球の中心に固定されたサンプルは、起動のための魔力を注ぐとくるくると回り始める。

 自覚できるくらい勢いよく魔力を消費しつつ、深紅に光り始める魔方陣。

 時々ノイズのように黒い線が走るのも、見た目の禍々しさを倍増している。

 高圧魔力特有の高音域の稼働音が、耳を打つ。

 明るい青緑色の文字が、帯のように創命環陣の回りを螺旋状に漂い始め、異様な雰囲気を醸し出す。

 ──早く解析しないと、燃料切れになる。

 私は無駄話をやめ、古代の魔法文字解読に専念した。


 魔方陣は消え失せ、私は脱力感からぐったりと床に座り込んだ。

 勿論一回で全部読み取れたわけじゃない。

 十日ほどかけて、数種類のサンプルから情報を引き出した。


 解析結果は──


 ・ヒト18%

 ・龍27%

 ・文字化け、49%

 ・ケルベロス3%

 残り3%は精霊、不死族、幻魔族と──判読しきれなかった幾つかの遺伝子だった。

 

 「ケルベロス、ケルベロス入ってたわ」

 「マジかよ!なのに俺なんであいつらから、あんな仕打ちを!?」


 「ダメ、笑い死んでしまうわ……魔力がもうないのに」

「納得いかねえええ!」


「ブフッ……あっちから見たら裏切り者なのよ、多分!」

「ひでぇ……3%で嫌われるとか理不尽すぎんだろ」


 フレスベルグは地団駄を踏み、悔しがった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>「ケルベロス、ケルベロス入ってたわ」  つーことは、アレだ。  変な事してケルベロスの因子が覚醒したら、フレスベルグをデフォルメしたモノがフレスベルグの頭にクタッと乗っかるわけだ。  …………それ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ