緊急会議終了
勇者パーティのエルフをどうするか。
各自の考えで、あれこれ意見交換が交わされる中──
私はフレスベルグの隣に移動し、聞いてみた。
「ねえ、火事の後──魔紋のサーチとかしなかったの?」
「やったことねーし」
「!?」
──そんなことある?
魔力紋サーチって基礎にはいると思うのだけど!
(フレスベルグは421歳。──10歳程度の姿で発生したと聞いている。こっちに転生してから421年……)
何故、魔紋サーチが出来ないのか。
「組合的には暗殺は避けたいのよ」
カルミラの声で、私は思索の底から現実に戻された。
──魔王イベントは、いわばお祭りのようなもの。
あっても無くてもいいものだ。
だから、死傷者がでないようカルミラは頑張っているのだ。
「うーん、かといって放置は悪手だと思うぞ?相手はエルフだし……」
「そうよねぇ」
「誘拐か交渉で魔法契約が無難なのでは?」
「エルフに無難ってあるの?」
「ないな」
セレナが水音を響かせ、尾を水面に打ち付け呟いた。
「現実的なのはやっぱりアラインの買収と魔法契約じゃない?」
「そうなるよな、誘拐はこっちのロスが多くなりそうだし」
「そうなると、こちらが何を提示できるか──」
「人工生命体に関する何か?」
会議が進んでいるようで、進んでいない。
面倒なら勇者が帰るまで氷漬けにしておくとか、結界で監禁でもいいと思うんだけど。
(まあ、様子見ておこ)
「人工生命体にも色々あるじゃん?」
「キメラ、ホムンクルス、人工精霊とか──」
「あ、ホムンクルスの研究っぽい、ほら。この魔搭パンフレット写真の背景……ホムンクルスの培養ポッドじゃん?」
「いや、キメラでも使うぞ、あのポッドはおそらく細胞培養だからな」
私は口を開いた。
「アラインの興味がどこにあるか、ね。それさえ確定すれば──」
カルミラが力強く頷いた。
「引き続き調査はいれておく。後は各自、危険がないようアラインの調査を」
会議はその後、勇者の話に。
「後は斥候とタンク、良い人材がいればサブタンクをいれるみたい」
「へえ、今回の勇者って攻撃特化なんだ」
「あーね、前の勇者はタンクやってたもんね」
「資料によると、サブタンク出来るだけの頑丈さはあるみたいよ?」
レスターがメンバーと役割を書き出し、考え込んだ。
「となると──防御が手厚い、嫌な感じのデバフ打ってくるパーティ構成か」
「フレスベルグが苦手なヤツだ!」
「んねー」
「あ、そうそうハナなんだけど」
カルミラの言葉に、全員の注目が集まる。
「指示での癒しはやっぱり無いみたい」
「犬だからな」
「は?犬だからこそ指示聞くんじゃねーの?」
「犬によるだろ。しかもおじいちゃんだぞ」
「ただ、ハナの近くにいると傷が治りやすかったり疲れが取れるという結果が出てるっぽい」
「あーオートパッシブ?」
「なるほどー」
「結界も張れるっぽいけど、本犬の気分次第らしい」
カルミラのサロンは城内に幾つかあるが、人魚のセレナと巨人族のゼグが入れる仕様になってるのは二部屋だ。
ゼグの身長は十メートル近いけれど、魔力操作で四メートル近くまでは小さくなれる。
魔力は大きいが、魔力操作が苦手な巨人族からすると、すごいことなのだ。
大抵は小さくなれないからね。
まあ、四メートルでも大きいんだけど──
そんなわけで、魔王組合の会議は一階で──天井が遥か高みにある吹き抜けの部屋になっている。
セレナのいる水槽は海に繋がっているから、セレナは海から直接やってくるのだ。
使わない時は魔法蓋を被せ、外部からの侵入を防いでるんだとか。
「やっぱ犬が聖女って上手くいかんなぁ」
「喋らないですからね」
「王城の庭に、ベイリウスとミシュティの植えたマンドラゴラはハナに全部……」
「ええっ」
「問題ないですよ」
ベイリウスが銀縁メガネを押し上げつつ、報告を行った。
「成体まで熟したマンドラゴラは四十七株。うち一株が変異したので、それは回収済みです。肥料を変え、タイプの違うマンドラゴラですが──」
ベイリウスは咳払いをし、水を飲んでから言葉を続けた。
「どのマンドラゴラも、サプリメント効果のあるもので犬が食べても問題ないものです。かってに抜けて歩き回る場合は無音ですが、本体の意志に反して抜こうとすると──」
「大絶叫と魔力波よな?弱いものが聞いたら、死ぬか昏倒」
「はい。ですが、ハナは耳がほとんど聞こえてないので、全部掘り出して食べたようです」
「うわぁ…………」
「漢方、といいますか。ハナは調子良さそうですよ」
「ではそのマンドラゴラは定期的にハナに。安定供給は出来そうなの?」
「ええ。ミシュティ嬢に栽培を任せております」
──ああ、畑のマンドラゴラ!
ドラゴンにも良いお薬マンドラゴラ、ハナにも与えるのね……
私は魔条網の中で歩き回っていた大量のマンドラゴラを思いだし、頭を振って口を噤んだ。
会議が終わり、みんなが帰ったタイミングで私はカルミラに声をかけて聞きたいことを尋ねてみることにした。
「カルミラ、ちょっといいかしら?」